学会誌「生命保険経営」の最新号が手元に届いたのでパラパラ読んでいたところ、ニューヨーク州の医療保険事情について興味深いニュースを二本、見つけたのでご紹介。
ひとつはライフネットに似たコンセプトの新しい医療保険会社、Oscar の取り組み。オバマケア=国民皆保険の導入に伴い設立されたネット保険、しかも創業者はハーバードMBAの卒業生だったりする。スマホファーストでデザインされたHPや、これまでの保険会社とは違ったブランドイメージを構築しようとしている点が参考になる。現在はニューヨーク州とニュージャージー州で運営されている。
冒頭の挨拶文もライフネットの世界観に似ていると感じた。
“Hi, we’re Oscar. A better kind of health insurance company. We’re using technology and design to make healthcare simple, intuitive, and human. In other words, the kind of healthcare we want for ourselves.”
「こんにちは、Oscarです。僕らはこれまでとは一味違う感じの医療保険会社を目指しています。テクノロジーとデザインを活用することで、医療をシンプルで、直感的で、人間臭いものにしたいと思っています。つまり、僕らが自分たちのために欲しい医療を作っているのです」
この声明文は、ライフネット生命の「私たちは、自分たちの友人や家族に自信をもってすすめられる商品しか作らない、売らない。」というマニフェストを彷彿させる。
この Oscar 社が最近はじめたのが、健康維持に努める契約者にインセンティブを与える、というもの。同社が無料で契約者にフィットネスモニターを配布し、配布されたモニタの記録に基づき、契約者が目標の歩数に達成した場合、契約者に1ドルの報奨金が支払われるというもの。1ヶ月の上限が20ドル、1年間の上限額が240ドルとのことだが、健康になるため、つまり支払リスクを軽減させるために努力している契約者が報われるのは、保険のあるべき姿ですね。日本で実施する上でのチャレンジは、健康維持・増進のための活動が実際に支払い削減につながることを、保険数理的にきちんと説明できるかどうかだろうか。
もうひとつのニュースは、ニューヨーク州知事が性別適合手術の医療保険適用を義務づけるという新たな規制を打ち出したこと。記事によると、これまでは「おおむね美容的な性質なもの」とみなされ、保険適用外とされてきた性別適合手術について、今後は医療上必要だと判断すれば保険適用が求められるとのこと。この規制は既にカリフォルニアをはじめ8つの州で実施されており、ニューヨーク州は9つ目になるとのこと。
この記事によると、保険業界は性別違和症候群への保険適用には反対していないとしながらも、この規制によって性別適合手術への保険金が大量に発生することを懸念しているという。本当にそうだろうか。記事によると米国で行われている性別適合手術の件数は年間100件から1000件の間とのことなので、「性別違和症候群の人は保険群団のごくわずかな割合を占めるに過ぎず、今回の規制で仮に保険料が顕著に上昇するとしたら大きな驚きである」と州金融監督局長官はコメントしている。
わが国の医療保険についても、色々と考えさせられるヒントがある2つの記事でした。
編集部より:このブログは岩瀬大輔氏の「生命保険 立ち上げ日誌」2015年3月3日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は岩瀬氏の公式ブログをご覧ください。