スイスで反イスラム傾向が強まる --- 長谷川 良

アゴラ

スイスの中道右派政党「国民党」(SVP)は同国南部のヴァレー州で公共学校内でイスラム教徒のスカーフ着用を禁止する住民署名集めを開始した。目標は半年以内に4000人の署名を集めることだ。バチカン放送独語電子版が2月23日、報じた。


同イニシァティブ委員会の共同議長 Jean Luc Addor 氏は、「わが州ではイスラム教徒の生徒が公共学校内でスカーフを着用することは認められない。スカーフは宗教的シンボルではなく、政治的イスラム教を表示するからだ。だから、われわれの運動は『宗教の自由』を蹂躙するものではない」と説明している。スイスでは同州以外でもスカーフ着用禁止を求める議論が出てきている。

スイスで2009年11月29日、イスラム寺院のミナレット(塔)建設を禁止すべきかを問う国民投票が実施され、禁止賛成約57%、反対約43%で可決された。スイス連邦政府は「宗教の自由の尊重」という立場から一貫して建設禁止への反対を表明してきただけに、投票結果に大きな衝撃を受けたことはまだ記憶に新しい。

建設禁止が多数を占めた背景には、スイス社会のイスラム化への懸念がある。スイスでは1990年、イスラム教徒数は約15万人に過ぎなかったが、その数は現在、約40万人だ。過去20年間で2倍半急増したわけだ(「ミナレット建設禁止可決の影響」2009年12月1日参考)。

その後、スイス南部のティチーノ州で2013年9月22日、ブルカや二カブなど体全体を隠す服の着用禁止の是非を問う住民投票が行われ、州国民の約65%が「公共の道路、広場で顔を隠してはならない。また、性別に基づいて他者に顔を隠すように強制してはならない」というブルカ着用禁止を支持している。

「スイスは世界から逃げてきた人々が住み着く“逃れの国”だ」と呼ばれるほど、多くの難民が同国に避難してきた。レーニンはスイスに逃れ、革命を計画し、カルヴィンもスイスに逃れ、宗教改革を起こした。しかし、一連の住民投票の結果を見ても分かるように、スイスで外国人排斥傾向が高まってきているのだ。

同国では北アフリカ・中東諸国の民主化運動「アラブの春」以降、それらの地域から難民申請者が激増し、犯罪が急増してきた。それに呼応して、国民の間で外国人排斥傾向が高まっている。ちなみに、同国で13年6月9日に行われた難民法改正を問う国民投票では、現難民法の強化に約78.5%が賛成票を投じている。スイスの難民数は人口比ではドイツ、オーストリア、フランスより多い。なお、同国の外国人率は約23%と欧州ではダントツだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年3月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。