2月アメリカの雇用統計から

岡本 裕明

本日発表された2月のアメリカ雇用統計ですが、私の印象は市場の反応と違い、「微妙」と評しておきます。

まずは統計の結果ですが、事前予想の235千人増に対して295千人増と良すぎるほどの数字が出てきました。失業率も前回の5.7%から2ノッチ改善して5.5%となり失業率だけ見れば優秀な水準まで回復したと言えます。労働参加率は62.8%で1ノッチ低下しています。


私が気にしているのは賃金で、0.1%の上昇と事前予想を下回ったほか、1月が0.3%上昇だったことを考えると労働市場の改善に対して賃金がついて行っていないことが見て取れます。また、年間を通じた賃金上昇率は2.0%に留まり、失業率の改善と賃金の歯車がかみ合っていないようです。これは先々日本型デフレを招く入口にありますので非常に注意しておくべきかと思います。

失業率については記録的な雪や気象状況、カリフォルニアの港湾労働者のストライキの影響が3月以降、改善されるためにプラスサイドに働くことになりますが、利上げ近しという市場見込みから為替がドルの独歩高を招きやすく、アメリカの輸出産業にはマイナスに働くことで全体としてはウォッシュ(相殺)されるとみています。

NY株式市場は利上げが想定より早まるのではないかと見る動きから大きく値を下げました。市場は今後、溢れる資金をどう運用するか、その思案をすることとなり、利益確定をさせて新たなる運用先を模索するとすればむしろ、その動きの方が注目されます。個人的には6月の利上げはないとみており、先々利上げをするとしても0.25%といった過去の例にならった引き上げ幅ではなく0.1%や0.15%といった刻みにしてインパクトを下げる可能性はあると思います。

さて、目を転じてヨーロッパですが、ECBの3月5日の政策会議の詳細が公開されたのですが、これを見るとGDPについては1.5%(2015年)、1.9%(2016年)と1.0%、1.5%とした前回見込みより大幅に引き上げているところに注目できます。また、インフレ率については0.0%(2015年)1.5%(2016年)としています。特に今年については当初0.7%程度のインフレ率を見込んでいたものの原油安とロシア経済の影響を考慮したのでしょうか、引き下げています。

注目は対ギリシャ支援で現状の支援策を4か月間延長して再交渉をしている間はギリシャ国債は一切購入しないとしています。また、ギリシャの様に投資適格以下の国債購入はギリシャがリストラを着実に実行し、計画通りの回復がなされている除外条件を満足しなくてはいけません。が、その除外条件そのものをECBが不適格として既に取ってしまっているためギリシャの支援は正にギリシャ次第という事になります。夏のギリシャからの返済期日が迫っていることもあり、支援策の策定は6月末がギリギリ。今はつかの間の安堵という事になります。

全体的には地球儀ベースでのマネーの動きを見ていくことになると思いますが、以前も書かせていただいたように政策が180度違うこともあり、アメリカと日本の株式市場の連動性はかなり薄れています。アメリカのマネーが日欧に逆流することもあり得るのかな、と思っています。仮にNY株式市場が今後、下落基調となれば利上げをしにくい雰囲気を作ることにもなり当面は疑心暗鬼な相場展開となる気がいたします。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 3月7日付より