地方創生にMBAなんか要らねー

新田 哲史

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どうも新田です。生粋のショートカット志向なのでホトトギスが鳴くまで待てそうにありません。ところで愛知県の岡崎市といえば、徳川家康の生誕地であり、今は、ゆるキャラ界の中部地方の代表格的な「オカザえもん」で知られているわけですが、昨今の地方創生界隈で大変注目されているのが岡崎市の岡崎ビジネスサポートセンター(通称Oka-Biz:オカビズ)です。


◆行政なのに行列のできるビジネスセンター
オカビズは市の組織ですが、売り上げ向上に悩む地域の中小企業や個人事業者等に対し、民間出身のアドバイザーが相談に乗るのが特徴で、これが非常にバズってしまいまして。2013年10月の開設当初は、毎月の相談件数の目標を50件程度に置いていたところ、ふたを開けたら数か月で3ケタに乗ってしまい、多い時には150件ペースで駆け込んでくるという、文字通り「行列のできる経営相談センター」になっております(詳しくは報告書をご参照)。
オカビズ
これまでにも地方で「経営相談」というのは一応、土地の金融機関とか商工会議所的な組織があったり、あるいは税理士や会計士が兼業的に経営コンサルをやっていたりはします。しかし、銀行の地域向け企業の経営診断というのは、BSやPLを見たりとか、士業系のコンサルさんは3CだのSWOTだの分析をしたりとかいう具合に、個々の課題は指摘する。しかしそれらは「守りの経営」の指南にはなるかもしれないが、具体的にどうやって売上げを伸ばすかという「攻めの経営」の領域になると、口ごもる方も多いわけです。

その点、オカビズは振り切ってます。たとえば米食離れや量販店の台頭で低迷するお米屋さんからの相談には、キャラクターコラボの新商品「オカザえもん米」の開発とお土産購入層へのギフト展開を提案。ネットやテレビで話題になって若いお客さんが増えたそうです。ほかにも和菓子屋さんにネコの饅頭を作るよう提案したら、それがネコ愛好家に読まれている媒体に取り上げられたのを機に話題になってネット経由の注文が続出したとか、切り花を染める染料を作って花屋に売れなかった染料の卸売業者さんに、小学生の夏休みの自由研究キット用へのカスタマイズを提案したら、それが大成功して某有名通信教育から大量発注が来ちゃったとか、面白すぎる「成功例」が積み上がっているようです。

◆なぜ売り方イノベーションを提案できるのか?
ここのセンター長は、BLOGOSのブロガーでもある社会起業家の秋元祥治さん。鈴木寛・文科相補佐官の教え子で、すずかん先生からのご紹介で知り合いまして、センターで開催しているビジネスセミナーの一環で、ワタシメもプレスリリースの講座で2度ほどお話させてもらいました。これらの成功例の仕掛人であります。

秋元さんは元々、岐阜で中小企業とインターンシップの若者をつなぐNPO事業をされているのですが、大学は早稲田を中退。経営コンサル会社に務めた経験もないのですが、切り花染料を自由研究用のキットに変えるような、「売り方イノベーション」を提案できる理由を聞いてみたところ、これが興味深い。

秋元さんのもう一人の師匠といえるのが、こちらも静岡県富士市でオカビズの先例となるビジネスセンターを仕掛けた小出宗昭さん。秋元さんに小出さんがアドバイスしたという話では、地域の中小企業に対して「攻めの経営」を提案できる人材は、「資格じゃなくて適性」だというのです。

その適性は3点。1点目は「ビジネスセンスと情報感度が高くて自分のものにできること」。前述のネコの饅頭の事例でいえば、秋元さんは猫のグッズが他にあたった事例を以前から仕入れていたことがヒントになったそうです。

2点目は「コミュニケーション能力」。オカビズの相談時間は1時間。オカビズではお仕着せな経営分析ではなく、相談者の強みを徹底的に引き出す手法で攻めの経営を指南しているだけに「1時間1本勝負でどこまで話をしてもらえるか」(秋元さん)がカギになるわけです

3点目は地域の公共視点に立てるかどうか。“官立コンサル”のオカビズはフィーを取っていません。民間であれば成功報酬的なフィーをもらえるような案件もありますから、金銭的なモチベーションではなく、「地域のため」という使命感が必要のようです。

◆MBAはLの世界で通用するのか
こうした考えは、都心の経営コンサル企業で体得するイズムとも、ビジネススクールで学ぶものとも違うように思えます。昨年、ベストセラーになった冨山さんの本にも書いてあるように、やはりGの世界とLの世界の経営力学は異なることが多いわけですから、適性や発想も相応にカスタマイズされていなければならないでしょう。MBAはGの世界や大企業ビジネスの“パスポート”に過ぎず、“渡航先”でどう実りよい旅をするかは感性の部分もあって、それを磨くことの大事さを感じます。


ま、Gの世界でもMBAホルダーが使えない人が多い的な話は、私も友人の著名若手起業家からしばしば聞いてはおりますが、たとえMBAだろうと中小企業診断士だろうと、攻めの経営を実効性のある形で指南できるかどうかは、資格は必要条件ではないと最近強く思います。

というわけで、グロービスの堀さんがNewsPicksで激ギレピックする様子を思い浮かべつつ、地方創生ネタといえば、東洋経済オンラインで絶賛大放談中の木下斉さんにマイクをお返しいたします。ではでは。

新田 哲史
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
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