独で「正しい歴史認識」議論が再熱 --- 長谷川 良

アゴラ

ドイツ・ナチス軍のギリシャ占領時代(1941~44年)の蛮行、ユダヤ系住民のアウシュビッツ収容所送還、経済的略奪などに対し、賠償金を支払うべきだという声がドイツの与党社会民主党や野党「緑の党」の指導的な政治家たちから出てきた。独週刊誌シュピーゲル電子版16日が報じた。以下、その記事の概要を紹介する。


社民党の党幹部ゲジーネ・シュヴァン女史(Gesine Schwan)は、「政治的に見てもギリシャ国民へ戦時賠償金を支払わなければならないことは明らかだ。われわれはギリシャで不法なことを行ったと認識しなければならない」と述べている。

メルケル政権のパートナー、社民党のラルフ・シュテグナー副党首(Ralf Stegner)は、「対ギリシャ戦時賠償金問題を現行のユーロ危機と関連すべきではない。それとは別問題として戦時賠償問題につぃて議論をすることはいいことだ。この問題はわれわれの歴史と関連し、久しく解決しなければならなかったテーマだ」と語っている。

一方、野党「緑の党」のアントン・ホーフライター議員(Anton Hofreiter)も、「ユーロ危機に関係なく、ドイツは対ギリシャ戦時賠償問題を道徳的、法的に解決済み、といった姿勢を取ることはできない」と指摘し、「政府はギリシャ側とナチスの犯罪行為に関して協議し、良き解決策を見つけ出すべきだ」と強調している。ちなみに、ドイツでは左翼党だけがこれまで対ギリシャへの戦時賠償を実施すべきだと要求してきた。

ギリシャのチプラス政権は発足後、ドイツに戦時賠償金問題を重要議題とし、ドイツ側の対応次第ではギリシャ国内のドイツ資産の押収を示唆するなど、ベルリンを脅迫してきた。それに対し、メルケル政権はギリシャ側の要求を一蹴してきた経緯がある。

ドイツ側は対ギリシャ戦時賠償問題では「2プラス4」協定(Zwei-plus-Vier-Abkommen)のドイツ再統一後、その法的根拠を失ったという立場を堅持してきた。ただし、法専門家の中には、「法的には解決済みだが、対ギリシャ戦時賠償問題をもう少し広い範囲で議論すべきだ」という意見も聞かれるという。

具体的には、
①ヒトラーのドイツが1942年、ギリシャ中央銀行から4億7600万マルク(当時)の資金を強制的に借り入れたが、その返済はこれまで実施されていない。現在の価格では80億から110億ユーロに相当する巨額な借り入れだ。。

②1944年6月10日、ナチス親衛隊によるDistomoの婦女、子供大虐殺に対し、ドイツは賠償金を支払わなければならない(ドイツは1960年代、戦時賠償支払いの枠組みの中(Globalentschadigungsabkommen)で1億1500万マルクをギリシャ側に支払った)。

当コラム欄で既に報告したが、対ギリシャ戦時賠償問題は昨年3月、ドイツのガウク大統領のギリシャ訪問時にも浮上してきた。大統領はその時、ギリシャ国民の要求に理解を示したが、政府の公式的立場を繰り返す以外に具体的には何もできなかった。

シュバン議員は、「基本的にドイツの義務だ。ギリシャ国民へのナチスの蛮行についてドイツ人は認識不足だ。時間が経過したとしても、犠牲者は忘れることはできない。借り入れたクレジットはもちろん返済しなければならない」と主張、「賠償問題に関する基金を設立して両国の和解を促進させていくべきだろう」と語った。

なお、ホーフライター氏は、「ユーロの金融支援と歴史的にセンシティブな問題をリークすることは絶対あってならない」と警告を発し、チプラス政権を牽制することも忘れていない。

社民党と大連立を組む与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の議員からは目下、対ギリシャ戦時賠償問題の見直しに関する発言は聞かれないが、社民党の出方次第ではメルケル首相もなんらかの対応を強いられることも考えられる。メルケル首相が心配している点は、ギリシャに戦時賠償問題で譲歩した場合、イタリアなど他の国からも同様の要求が出てくるのではないか、といった懸念だ。

いずれにしても、チプラス首相が今月23日、ベルリンを訪問、メルケル首相と首脳会談するが、そこで戦時賠償問題がユーロ金融支援と共に主要テーマとなることは確実だろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年3月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。