バチカン法王庁のナンバー2、国務省長官のパロリン枢機卿は中国共産党政権との対話促進を強調する一方、香港カトリック教会の最高指導者を退位した陳日君枢機卿(Joseph Zen Ze-kiun)は、「中国政府はバチカンとの対話には関心ない」と警告を発している。イタリア日刊紙「コリエ・デラ・セーラ」がこのほど報じた。
バチカンの対中政策は中国との外交正常化と中国国内のカトリック教会の権利強化にその焦点がある。パロリン枢機卿は、「対話は双方にとってプラスだ。その成果は必ずもたらされる」と主張し、バチカンの対話路線の堅持を強調している。それに対し陳日君枢機卿は、「間違った対話路線でバチカンは司教任命権すら中国側に奪われかねない」と警戒している。
バチカンはべネディクト16世時代の2007年、中国を潜在的な最大の宣教地と判断し、北京に対して対話を呼びかける一方、同16世は中国の信者宛てに書簡を公表するなど関係の正常化に乗り出してきた。ちなみに、同16世のメッセージはインターネット上で公表されたが、中国政府はそのサイトを削除したことが後日、判明した。
中国外務省は過去、両国関係の正常化の主要条件として、①中国内政への不干渉、②台湾との外交関係断絶―の2点を挙げてきた。中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ法王ではなく、中国共産政権と一体化した「愛国協会」が行い、国家がそれを承認するやり方だ。バチカンは司教任命権を北京に委ねる考えはない。中国官制聖職者組織「愛国協会」は06年4月と11月、バチカンの認可なくして司教を叙階してバチカンの激しい批判を受けたことがある。
バチカン放送によれば、愛国協会は現在、中国を138教区に分け、司教たちが教区を主導している。一方、ローマ法王に信仰の拠点を置く地下教会の聖職者、信者たちは弾圧され、尋問を受け、拘束されたりしてきた。ただし、両教会の境界線は次第に緩やかになってきていることも事実だ。例えば、愛国協会の多くの司教たちが後日、ローマ法王によって追認されている。
中国では過去20年間で5000以上の教会が建設されたり、改修されている。中国当局の公式データによれば、12の神学校があり、69人の司教、1600人の神父、3000人の修道女がいる。国民の宗教熱が高まる一方、愛国協会では聖職者不足、特に、若い神父不足が深刻化しているという。
中国共産党政権にとって、バチカンとの外交関係正常化は国際社会のイメージアップに繋がるが、国内の信者への影響を考えた場合、躊躇せざるを得なくなるはずだ。バチカンの対話政策が実りを挙げるまでにはまだまだ長い道のりが控えているだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年3月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。