トップ5%と下位20%、アメリカの所得格差はこう変わった --- 安田 佐和子

アゴラ

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日本では、トマ・ピケティ著”21世紀の資本”が大いに話題になっているようですね。こちらニューヨークにて、フィーバーは鎮火済みです。米国でミリオネア世帯が過去最高を更新したとのニュースも、全く話題になりませんでした。


ブルッキングス研究所が所得格差をめぐり、こんな衝撃的な調査を発表してもどこ吹く風です。

米国勢局のサーベイを元に、ブルッキングス研究所はトップ5%と下位20%の年収にメスを入れアメリカにおける格差社会の全貌を明らかにしています。

2013年時点で、全米で上位5%の平均年収は20万234ドル(約2428万円)でした。下位20%の年収が2万1433ドル(約257万円)ですから、上位5%の年収は9.3倍に達します。2012年の9.1倍から、じわり格差が広がっていました。

全米50都市別では、一段と拡大しています。トップ5%の平均年収22万1700ドル(約2660万円)に対し、下位20%が1万9143ドル(約230万円)。格差は実に11.6倍に及び、2012年の11.4倍を上回っていました。

全米50都市別(左)、全米平均(右)そろって、2012年から富める者との格差は拡大。
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(出所:Brookings)

全米50都市で、上位5%の平均所得が大いに増加してことが一因です。以下は、”2013年版:都市別の年収増加率ランキング”で%は前年比になります。ニューヨークはもちろんのこと、投資の神様ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイの本社を置くオマハがランクインしていました。

1位 シアトル(ワシントン州) 14.9%増の27万8084ドル
2位 クリーブランド(オハイオ州) 13.9%増の11万6034ドル
3位 ジャクソンビル(フロリダ州) 13.8%増の17万5075ドル
3位 ルイスビル(ケンタッキー州) 13.8%増の17万5591ドル
5位 サンノゼ(カリフォルニア州) 12.2%増の31万325ドル
5位 ダラス(テキサス州) 12.2%増の22万7015ドル
7位 ポートランド(オレゴン州) 11.3%増の17万6735ドル
8位 オマハ(ネブラスカ州) 8.1%増の17万6735ドル
9位 ニューヨーク(ニューヨーク州) 6.4%増の24万3529ドル
10位 ヒューストン(テキサス州) 6.3%増の22万582ドル

都市別の上位5%の平均年収は、こちら。
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(出所:Brookings)

”2015年版:全米で一番、リッチになれる都市ランキング”でもトップ3に食い込んだカリフォルニア州サンフランシスコ、同州サンノゼ、ワシントンD.C.トリオが肩を並べます。特にハイテク関連の富豪が居を構えるサンフランシスコでは、上位5%の平均年収が42万3171ドル(約5078万円)と、他の追随を許しません。世界に誇る金融の中心地ニューヨーク市は6位で、トップ5%の平均年収は24万3529ドル(約2922万円)にとどまりました。アイビーリーグ卒の学生が、シリコンバレーを目指すはずですね。

では、気になるトップ5%と下位20%の格差が最も大きい都市をみてみましょう?2013年の所得をベースにまとめたランキングは、こちら。倍率は同じでも、ブルッキングス研究所の調査結果に順位に合わせています。

10位 ミネアポリス(ミネソタ州) 12.5倍
→トップ5%の平均年収 21万4629ドル、下位20%は1万7159ドル、2012年は15位

9位 ロサンゼルス(カリフォルニア州) 12.5倍
→トップ5%の平均年収 22万9310ドル、下位20%は1万8322ドル、2012年は9位

8位 シカゴ(イリノイ州) 12.5倍
→トップ5%の平均年収 20万9574ドル、下位20%は1万6706ドル、2012年は8位

7位 ダラス(テキサス州) 12.7倍
→トップ5%の平均年収 22万7015ドル、下位20%は1万7823ドル、2012年は13位

6位 ニューヨーク(ニューヨーク州) 13.7倍
→トップ5%の平均年収 24万3529ドル、下位20%は1万7759ドル、2012年は6位

5位 ワシントンD.C.  14.4倍
→トップ5%の平均年収 30万2265ドル、下位20%は2万1036ドル、2012年は5位

4位 マイアミ(フロリダ州) 14.8倍
→トップ5%の平均年収 16万9855ドル、下位20%は1万1497ドル、2012年は3位

3位 ボストン(マサチューセッツ) 15.0倍
→トップ5%の平均年収 23万9837ドル、下位20%は1万5952ドル、2012年は4位

2位 サンフランシスコ(カリフォルニア州) 17.1倍
→トップ5%の平均年収 42万3171ドル、下位20%は2万4815ドル、2012年は2位

1位 アトランタ(ジョージア州) 19.2倍
→トップ5%の平均年収 28万8159ドル、下位20%は1万4988ドル、2012年は1位

格差が最も著しい都市に、ジョージア州アトランタが2年連続で1位の座を獲得しています。アトランタといえば1996年の五輪開催地であるほか、コカコーラやCNN、デルタ航空の本社を抱えていることで知られていますね。一方で全米でも指折りの犯罪都市という不名誉な側面を持ち合わせており、アトランタ発展の影を見るようです。

格差が著しいランキングの上位には、大都市がズラリ揃いました。サクセス・ストーリーを夢見て都市に引っ越してくる方々が後を絶たないことも、一因でしょう。持てる者と持たらざる者の格差は、着実にアメリカ社会をむしばみつつあります。

逆に格差が最も小さい都市の1位には、観光地で知られるバージニア・ビーチ(バージニア州)が入り6.2倍でした。2位のコロラド・スプリングス(コロラド州)は7.3倍、3位のメサ(アリゾナ州)は7.5倍と続きます。激しい格差社会を示すアトランタやサンフランシスコと違って、郊外の都市が多く並びました。

ブルッキングス研究所は、調査結果を受けて「最低賃金の引き上げ」をひとつの解決策に挙げていました。ワシントン州シアトルでは、2017年に最低賃金を15ドルへ引き上げる法案を可決。その他の州が追随するにも、企業の根強い反対もあり簡単にいきそうにありません。その他の手段として、同研究所は地方政府による教育や経済発展をはじめ住宅、区分けなど改善を提唱していました。都市が発展するかどうかの命運は社会流動性がカギを握るだけに、行政側の改革案が求められます。

(カバー写真:M. Jeremy Goldman/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年3月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。