「2年で2%」というインフレ目標

北尾 吉孝

2年前、黒田東彦氏は第 31 代日本銀行総裁に就任し、『消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現』すべく、その翌月より所謂「異次元緩和」を導入しました。


此の「2%の物価目標そのものは白川総裁時代の13年1月に、政府と日銀が結んだ約束」であります。目途とした2年が経過しましたが、「最近の物価上昇率は0%近くまで鈍化」し、その実現は現実的に極めて遠いものとなっています(参考:黒田総裁就任後の消費者物価指数上昇率の推移)。

之に関しては「目標未達」として様々な識者がその「責任」を問うている状況がありますが、その一方で例えば「2%はハードルが高い」「そもそも2%を目標とすべきなのか」という持論を展開される、大和総研理事長の武藤敏郎氏(元日銀副総裁、元財務次官)のような方もおられます。

私も2%という数値目標に余りに固執する必要性はないと考えており、もっと言えば「1%が良いのか」「2%が良いのか」といった目標設定自体が不要ではないかとすら思っています。

そうした形式論ではなく一刻も早くデフレからの脱却を現実のものとし一つの経済的好況感を一般の人達が感じられるようにすれば良く、目標を2%としたところで中々その通りに物価上昇が起こってくるかと言えば、決してそういうものではありません。

先週火曜日のブログでも述べたように、種種雑多な人間がいて様々な矛盾を内包する複雑系において、割り切りの知すなわち劃然(かくぜん)たる知では何も解決し得ず、また判断を間違うことにもなるでしょう。

凡そ複雑系の中でもそもそも経済というのはある意味最も複雑なものであり、然も今や世界中の経済が相互に絡み合い密接不可分な状況の下、その難解極める複雑系の背後にある種の法則性を見出し割り切れるような世界ではないと私は認識しています。

例えば、昨年10月末の「黒田バズーカ第2弾」に反対票を投じ「以後の会合でも政策委員会のメンバーの中で一人だけ反対し続けている」審議委員の木内登英氏も、「足元の物価上昇率が日銀が目指す2%と大きく乖離しているのは、原油安だけの影響ではない」と指摘していますが、そこには勿論1年程前よりの消費税増税の大変なネガティブインパクトも加えられましょう。

上記13年1月の「約束」時に、現在までに起こった様々な事象を総合的にグローバルで想定していた人が誰かいたでしょうか。原油の大暴落を一つとってみても誰一人と言って良い程見通せていなかったわけですから、そうした結果も踏まえて次々とまた新しい事象が起こり新たな現実が生じてくる此の複雑系にあって、3年目に入った黒田総裁の言等に難癖を付けるのは少し違うように思われます。

そしてまた先週金曜日の講演でも、黒田総裁は『原油価格が今後緩やかに上昇するという前提のもとで物価上昇率は「15年度を中心とする期間に2%に達する」との見通しを示した』と報じられますが、先に述べた通り私はそもそも2%などの数値を目標設定すべき話ではないというふうに思っています。

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