サウジの攻勢が生む不安

岡本 裕明

イエメンに対して隣国のサウジが遂に腰を上げ、軍事行動を起こしました。イエメンはアラビア半島の南端に位置する人口2400万人の小さな国家であり、石油は産出されますが、世界では39位程度の水準です。但し、海上交通の要所として知られ、そのボリュームは世界で4番目であります。


そのイエメンは現在、イスラム教シーア派の過激組織フーシが政権を掌握、一種のクーデターの状態になっており、その背後にはイランがいるとされています。この中、スンニ派のサウジアラビアが戦闘機100機と約15万人規模の部隊を動員する軍事行動を起こし、地上軍を投入する可能性も示唆しています。

これにより海上交通の要所のイエメンには船は近づかないように、という警告が出たため、石油の輸送に影響が出ると考えられ、石油価格は急騰、ニューヨークでは再び50ドルの大台を回復しています。

私はいつかはこのようなことになる予感はしていましたが、いよいよかという感じがします。

中東情勢には比較的疎い日本ですが、この軍事行動の意味するところをじっくり考えると世界経済に大きな影響を与えないとも限りません。何事も小さなフロス(泡)から大きな事件が発生します。イスラム国の問題を含めた中東の動きは世界経済が低迷する中、更に下押しさせる公算はあります。

まず、中東でおきつつある問題の複雑さとはだれが敵で誰が味方か分かりにくい複雑怪奇な状況になってきている点でしょうか?シーア派とスンニ派の区分けから更にたくさんの分派ができて、過激派同士でその勢力争いが行われています。イスラム国はその典型でアサドとイスラム国とイラン、サウジ等のアラブ諸国の関係は奇怪とも言えます。

このところの中東の問題の根本理由の一つは私は「アラブの春」にあったと考えています。サダム フセイン、ムアマール カダフィ、バッシャール アサドなどはアラブ社会主義の代表的存在であってイスラム原理教徒とは強く反発し合う関係にありました。アラブ社会主義そのものは67年の第三次中東戦争で衰退したとされるもののその首謀者たちが支配する国家は今日まで凛と存在し続けたわけです。

ところがその主であるフセインやカダフィがアメリカや中東の民主主義化の動きの中で押しつぶされ、イスラム原理教を抑える力が無くなったことにこのところの不和の一因があるのではないでしょうか?今、勃興しつつあるイスラム原理主義はイスラム教の教えの解釈を各過激派が極度、且つ厳密に捉えた結果であります。つまり、原理のフロスがたくさん生まれつつあるとも言えそうです。

イエメンのフーシとサウジの戦いは近視眼的にはどう見てもサウジが有利でありましょう。それはイエメンがアラビア半島の南端に位置するため、押し込めば逃げ道が無くなるからであります。しかし、戦術においては逃げ道を作ることで収まる場合も多くあります。ここでせん滅作戦をすると将来、テロがいくらでも起きる可能性を生み出します。

中東の和平の再構築には中東各国が強力な提携関係を作り上げることが重要であります。アメリカの中途半端な関与が当初存在していた微妙な均衡関係を壊したとも言えます。オバマ大統領の外交の失態が言われるのは正にここにあるのです。

もう一つ、このサウジとイエメンの問題はサウジの石油政策に一つの転機を促す公算があります。イエメンの港湾施設にリスクがある、あるいはサウジがいよいよ軍事作戦を本格的に展開するというニュースは石油価格にストレートにインパクトが出ることは考えるまでもありません。これは意図的に石油価格下落を放置していた同国の政策の力点が対テロや軍事にとって代わることを意味し、低石油価格の時代が終わる可能性は否定できないのではないでしょうか?(それに軍事費がかさめばサウジは石油の売却代金が欲しいでしょう。)

「ればたら」の話をしたらキリがないのですが、今、原油価格が70ドルなり80ドルなりの水準に戻る状態になると新興国などではスタグフレーションを引き起こしやすい状態になります。これは当然ながら世界経済に深刻な影響を与えることになるでしょう。そういう意味でも今回のこのフロスは私にとってはそう簡単に見過ごせない事件であると思っています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

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