政治家は程度の差こそあれ想定外のハプニングに遭遇する危険性を抱えている。無数の人々と接する機会が多いこと、そして全ての人がその政治家を好ましいと考えているわけではないことがある。極端な場合、今回のコラムのテーマである「暗殺」の危険性が出てくる。
世界の指導者の中でもオバマ米大統領、ローマ・カトリック教会の法王フランシスコの2人が最も暗殺の危険が高い指導者と受け取られている。それに異存はないが、ここにきて中国の習近平国家主席と北朝鮮の金正恩第1書記の2人が暗殺危険リストに入ってきたというのだ。
フランシスコ法王の場合、オーストリアの著名な神学者、パウル・ツーレーナー教授が、「カトリック教会内の根本主義者らによるフランシスコ法王の暗殺計画が囁かれている」と警告したことがある。実際、法王が昨年9月、アルバニア訪問の際、イスラム過激派勢力による暗殺計画があった、という情報が流れた。最近では、故ヨハネ・パウロ2世が1981年5月13日、サンピエトロ広場でアリ・アジャ(Ali Agca)の銃撃を受け、大負傷を負っている。
同じように、オバマ大統領の場合、オバマ大統領個人に対してというより、世界唯一の大国・米国に対して、米国憎しといった反米主義が世界至る所に燻っているだけに、米大統領にある人物には常に暗殺の危険性が伴う。
ところで、「暗殺危険リスト」に2人のニューカマーが加わってきた。北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺計画を描いた米映画「ザ・インタビュー」が話題を呼んだばかりだ。製作会社ソニーの米子会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)が北側の強い抵抗で映画の上演を一旦中止したが、テロの脅しに屈し、「言論の自由」「表現の自由」を放棄するものだと強い批判の声が米国内で上がってきたため、SPEは最終的には映画上演に踏み切った経緯がある。
北の場合、暗殺の危険は正恩氏の父親、故金正日総書記時代もあった。独裁政権では潜在的な政敵による暗殺の危険は常にある。そのため、独裁者は政敵の粛清を頻繁に行ってきたわけだ。ちなみに、正恩氏は政権を掌握後、党・軍内の統制を一段と強化している。
そして、中国の最高指導者、習近平国家主席にも暗殺の危険が差し迫ってきたというのだ。中国の海外反体制派メディア「大紀元」によると、「習近平政権は精力的に進める反腐敗運動で、これまでに省高官以上の高級幹部100人あまりを取り締まった。一方で、習氏に対する暗殺未遂情報が中国国内でしばしば浮上する。最新の報道では、習氏は最悪の事態に備えて『政権代行チーム』を考案している」というのだ。
香港のメディアによると、同主席は過去、6回ほど暗殺未遂に遭ったという。そして暗殺方法として、健康診断時の毒薬注射や爆弾を仕掛けるなど様々なシナリオが報じられている。その背景には、習近平主席が江沢民元主席親族経営事業へ腐敗捜査を進めてきたことに対し、危険を感じる勢力が習近平主席の暗殺を計画しているというのだ。また、西側の中国消息筋はウイグルの独立運動に絡んで北京指導部へのテロも考えられるという。
フランシスコ法王、オバマ大統領の2人は自由社会の指導者だ。一方、金正恩第1書記と習近平国家主席は独裁政権のトップだ。暗殺の危機は、社会体制の相違を超えて広がってきたわけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年3月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。