瞬説!アドラー心理学2:トンデモ新入社員とのウマイつきあい方

杉山 崇

 思想家アドラーの唱えた人生哲学がアドラー心理学です。科学者ではないアドラーの思想は部分的には科学的な間違いもあります。
 ですが、成功する秘訣に満ちた、まさに成功者の哲学ともいえるものです。特に日本の「お互い様」「おかげさま」を表した「共同体感覚」は上司と部下の人間関係を考える手がかりにも使われています。

 ところで、各企業さまはでは新入社員を迎え入れたことでしょう。
 厳密な選別を繰り返て採用した新卒のみなさんへの期待は察して余りあります。ですが、期待通りにいかないのが人というもの…「予想外」の言動に驚くことはないでしょうか。

 よく聞くのが本人たちが敬語のつもりで使っている「タメ語まがい」の問題です。指示を受けた時の「了解です」、先輩上司への「お疲れ様です」、「はい!」という場での「うん」…。
 これらは言葉だけの問題ではなく、

 「敬意があるのか!」

と怒りたくなる方も少なくないようです。

 この他にも、仕事へのやる気、責任感…学生気分が抜けているのかどうか疑わしくなって説教の一つもしたくなる方が多いようです。

 アドラーが生きていたら、このように悩む上司や先輩のみなさんにどのように助言したでしょうか。
 今日は一瞬で解説する名づけて瞬説で、「トンデモ新入社員」の「予想外」との向き合い方を考えてみましょう。

 ポイントは「お互い様の意識」→「自分が変わる勇気」→「嫌われる勇気」のプロセスを繰り返すことです。

まずはは「お互い様」の意識を
 さて、誰でも最初は新人時代がありました。あなたも、私も、あの人も、みんな最初は新人でした。右も左も分からない…。
 新人の最大の問題は、
「何ができていないのかわからない」
「できていないことに気づけない」
ではないでしょうか。

 「できていない」ことはストレートに教えたくなるものなのですが、ここでお互い様の発想をもちましょう。
 新人にはベテランや経験者の視点を持つことはできませんが、ベテランも新人の視点を持てないものです。新人に会社がどう見えているか、あなた自身が新人にはどう見えているか、100%理解できているといえるでしょうか。
 立場の違いだけでなく、育ってきた時代も違う、背景も違う…お互いにわからない。あなたにも新人がわからないのですから,新人にも会社のこと,仕事のことがわからなくて当然なのです。ここで腹を立ててはいけません。

次に自分が変わる勇気を
 「新人を見ているともどかしい…ストレートにガツンと教えたい!!」
 と思うこともあるでしょう。
 ですが,ここで説教をしてしまうと,あなたが伝えたいことは伝わらないし,期待と違う結果が出るだけです。ここは「お互い様」の意識で、新人のことを「学ぶ」ように務めましょう。

 「学ぶべきは新人だろう!!」と言いたくなるかもしれません。確かにそういう文化の業界や企業もあるでしょうし,それも大事なことです。
 ですが、人は自分を大事にする人を大事にするもの。自分を「知ろう」としてくれる人や会社は大事にしようとしてくれるはずです。そこから新人の「学ぶ意欲」を育てるのも試す価値はあるでしょう。

 何かを学ぶ勇気も「自分が変わる勇気」なのです。

最後に嫌われる勇気を
 あなた自身が「自分が変わる勇気」を持って新人のことを知ろうと務めて大事にしてあげたのに,新人はそれに甘えるばかり…。そんなお悩みもよく耳にします。
 ここで大事なことは「嫌われる勇気」です。この世は「お互い様」で成り立っているのですから,あなたが行った努力は,できる範囲内では新人もやるべきなのです。
新人の甘えが目立つときは例えば以下のように伝えてみてはいかがでしょうか。

「自分も十分じゃないけど,あなたに気持よく仕事してもらえるように自分なりに努力はしているつもりなんだ。あなたももう少しこういう努力してもらえると嬉しいんだけど,どうでしょう?」

ここで大事なことは次の言葉を付け足すことです。

「まあ,努力に僕が気づいていないだけかもしれないけど,実際のところどう?」

こうすることで,お互いに何を努力しているのか,または何の努力がたりないのか,相互理解を持つことができるでしょう。

相互理解の中でも「お互い様意識」,「自分が変わる勇気」,「嫌われる勇気」の循環が必要なことは言うまでもありません。

先輩だから,上司だから,という悪い意味での「長幼の序」に縛られずに,お互いに成長できることを目指しましょう。

執筆者プロフィール

杉山 崇
神奈川大学人間科学部教授・臨床心理士
キャリアコンサルティング技能士(2級)
2015年4月『入門!産業社会心理学(北樹出版)』刊行予定。
著作は『グズほどなぜか忙しい(ナガオカ文庫)』、ほか多数。

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