いつものように韓国日刊紙「朝鮮日報」日本語電子版を読んでいたら、興味深い記事に出会った。「ローマ法王の地球儀、和紙ではなく韓紙で修復へ」というタイトルの記事だ。当方はバチカン法王庁の動向をフォローしている手前、「ローマ法王の地球儀……」といったタイトルの記事を見逃すわけにはいかなかった。そのうえ、人気記事の第2位に入っていたのだ。
▲イタリアのベルガモのヨハネ23世博物館(2013年9月26日、ヨハネ23世博物館で撮影)
先ず、朝鮮日報の記事の一部を紹介する。
イタリア・ミラノ近郊のベルガモにあるローマ法王ヨハネ23世博物館の文化財修復事業に、韓国の伝統製法で作られた紙「韓紙」が使用されることになった。韓国外交部が2日、明らかにした。これまでヨーロッパの文化財の修復には日本の和紙が使われていた。
外交部によると、博物館は今月27日からヨハネ23世の貴重な地球儀に対し、韓紙を使って修復作業を実施するという。カトリック修道会の神言会からこの地球儀を贈られたヨハネ23世は、在任時(1958~63年)にバチカンの接見室にこれを置き、大切にしていたとのことだ。周囲が4メートルを超えるこの地球儀には当時の世界のカトリック教区分布図が詳細に描かれており、重要な文化財として評価されている。
当方は「韓紙」についてまったくの門外漢だ。そこで韓国観光公社のHPで「韓紙」についてサーチした。
「韓国の伝統紙・韓紙 ( ハンジ ) は、様々な用途に使用されました。昔から本やノートとして使われた以外にも、門や窓に貼ると保温や防風効果がありました。このように窓戸紙としても利用できたのは、韓紙が独特の製法で作られ、千年以上も保存できる非常に丈夫な紙だったからです。また、柔らかくて艶があり、通風と保温性に優れています。戸や窓に貼ると風は通さないし、ほのかに陽の光を感じさせ、とても古風な雰囲気をかもし出す上に、温度と湿度を調節してくれます。このように丈夫で活用性が良かったため、紙で鎧を作ったりもしました。韓紙を複数枚重ねて作った紙の鎧は矢を通しません。ユネスコ指定記録文化遺産が4つもあるのも、千年以上保存可能な韓紙で製作した書籍がたくさん残っているからこそ可能でした。最近では、韓紙で人形を作る工芸が人気です」
次に、どうしてバチカンは和紙ではなく、韓紙を利用することにしたのか考えた。韓国紙はその点には何も言及していない。明らかな点は、韓国はキリスト教徒人口が全体の3割を超えるアジア有数のキリスト教国家だ。そのうえ、ローマ法王フランシスコが昨年夏、韓国を訪問している。和紙は国際的な日本のトレードマークの一つで、その知名度では「和紙」は「韓紙」をはるかに凌いでいるが、バチカン関係者が、信者が多い韓国を日本より身近に感じたとしても不思議ではないだろう。
朝鮮日報によると、チャン・ジェボク駐ミラノ韓国総領事は、「韓紙による文化財・古書画修復ワークショップが昨年開かれた時、これに参加した専門家が『韓紙ファンクラブ』を作った。そのうちの1人が今回の地球儀修復事業を担当することになり、韓紙が採用された」と説明している。ワークショップに参加した専門家の推薦を受けて今回、韓紙の利用が決まったというわけだ。
朝鮮日報記者は、自国の文化財の一つ、「韓紙」がバチカンで使用されることを報じながら、記事の行間から、「和紙」との戦いで「韓紙」が勝利した、といった誇らしさも伝わってくる。
ちなみに、「和紙」が昨年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に決定した時、韓国側から「和紙は韓紙から影響を受けた」「和紙のルーツは韓国だ」といった異論が飛び出したことはまだ記録に新しい。
当方は「韓紙」について学ぶ機会となったので、朝鮮日報記者に感謝している。韓国の文化財を紹介する記事を今後も掲載して頂きたい。日韓の文化の違いと同質性などについて、更に学んでいきた。「和紙」と「韓紙」の関係、その違いなどについても知りたい。
日韓両国は「基本的な価値を共有していない」といった指摘が聞かれる時だけに、両国の文化を学び合う機会を提供するのもメディアの重要な使命の一つだ。他国の文化を学ぶことは、その民族の歴史を知る上で手助けとなるからだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年4月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。