どうも新田です。普段は芸能ニュースの訃報や悲報には割と淡々としているのですが、20年来のシャ乱Qファンとしては(かつてはファンクラブ会員にも入っていた)、つんく♂さんが声帯を失ったことを公表した報道を知った時にはこみ上げるものがありました。
■“周到”なメディア戦略
正午過ぎ、ツイッターの共同通信の速報で「声帯摘出」の文字を発見したものの、医学は素人なので、全部摘出でもう声が完全に出ないのかどうか、僅かにでも再生の可能性があるのか、その一報だけでは分からなかったので、グーグルニュースから、このオリコン記事を見付けて愕然となったわけです。
同時にこの記事の配信時間が正午きっかりだったことに私は驚きました。現場にいたわけじゃないし、記者は引退したので以下は、スポーツ紙の記者さんたちとかつて取材現場に居合わせた人間としての経験からの連想(ハズれたらごめん)。
共同通信が同じ正午きっかりにフラッシュニュースを打つに留まっていた中でオリコンは式の描写、つんく♂さんのメッセージの詳細な記事を配信済みだったので、もしかしたら事前に芸能メディアは察知していた一方で、一般紙は慌てて動いたのかも、と感じました(実際、読売新聞は15時過ぎに配信)。
さすがに芸能メディアに事前リークまでしていたかは分かりませんが、オウンドメディアとSNSの仕掛けがしっかりしていることが目を引きます。入学式用にオシャレなデザインの特設サイトを作ったこと自体も驚きましたが、ニコ生、USTREAMで動画配信。さらにツイッターでハッシュタグ「#近大2015」使用を呼びかけるように、特設サイトにプラグインさせています。
※エンタメ感満載の近大の入学式特設サイト(近大サイトより)
近大は2年連続で志願者数日本一を達成し、こんな書籍が出るくらいブランディングがうまいわけですが、つんく♂さんの発信をネット上でも倍加させる、大学のメディア戦略のうまさを含めて、その用意周到さに感心します。
なお、今回の体験をいずれ本にすればいいのに、と感じていたところ、ご本人のブログには「執筆中」とありましたので、ここまで来ると脱帽ですね(苦笑……幻冬舎あたりかな)。
■祝辞ににじみ出るプロデューサー魂
しかし、大学広報の仕掛けがうまいと言っても、やはり昨日の主役はつんく♂さん。祝辞のメッセージの端々にプロデューサーとしての真髄を感じます。
私も声を失って歩き始めたばかりの1回生。皆さんと一緒です。こんな私だから出来る事。こんな私にしか出来ない事。そんな事を考えながら生きていこうと思います。
もうこの書き出しが泣かせます。数々のヒット曲を生んできたプロデューサーは顧客目線。新入生の立場に寄り添い、同化することでシンパシーを誘います。
皆さんもあなただから出来る事。あなたにしか出来ない事。それを追求すれば、学歴でもない、成績でもない、あなたの代わりは無理なんだという人生が待っていると思います。
個性を磨くことを訴えるのが印象的なメッセージ。それでいて「学歴でもない、成績でもない」というくだりは音楽界という実力主義の世界で生き残り、成功してきたつんく♂さんが、社会で生き抜く厳しさを身に着けるようにさりげなく諭しています。
仲間や友人をたくさん作り、世界に目をむけた人生を歩んでください。私も皆さんに負けないように、新しい人生を進んで行きます!
だから最後にもう一度言わせてください。皆さん、近畿大学への入学、本当におめでとう!「ああ、良かった!」と思える大学生活をセルフプロデュースしてください!
■つんく♂さんが投げかけた思い
この締めくくりの「セルフプロデュース」の一言がひときわ力強く感じます。歌手生命を絶たれた男ならではの生き様、思いをプロデューサーらしい表現の中にカスタマイズして凝縮。「どうやって身を立てるか自分の力で考えなさいよ」という強烈なメッセージを最後に込めたのではないでしょうか。
そういえば、意識高い界隈では、似たような言葉で「セルフブランディング」なんてありましたが、あれは「身を立てる」という骨太なニュアンスではなく、「等身大よりも存在感をどう大きく見せるか」というように聞こえてしまいますね。
企業、産業のライフサイクルが短くなり、イノベーションが毎年のように勃興する21世紀。数年前、「アメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」という予測が話題になりましたが、現在の大学生たちも、子供の頃に存在しなかった職業に就く方は一定の割合でいるでしょう。いや、大人だって「40歳定年」なんて言われる時代ですからね。社会人生活のどこかでキャリアの棚卸しをして、どう生きるか問われているわけです。
必要なのは、前例踏襲や思考停止に陥らず、自分の才覚で時代の変化にどう適応するかの創意工夫。天才であろうと、凡才であろうと、世の中が千変万化する中で自分が生き残るために「どう身を立てる」か。みなさんの解釈はそれこそ多種多様だと思いますが、つんく♂さんの生き様プロデュースが、新入生たちの心に深く刻まれたことは誰もが同意するのではないでしょうか。ではでは。
新田 哲史
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
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