ギリシャは何処にむかうのか?

岡本 裕明

チプラス首相はギリシャを救うのか、破たんに導くのか、はたまたロシアにラブコールをして新たな友人を探し求めるか、もはや、誰も行方を占うことが出来そうにもありません。


バルファキス財務大臣はIMF向けの4億5000万ユーロの返済期限が9日に迫る中、その返済を確約しました。リファイナンスは当初の財政改革案が不十分で今月初めに再提出、それが現在精査されている状況ですからそれを協議していけばまだ時間がかかりそうで資金繰りがなお一層厳しくなりそうです。雰囲気的にはバルファキス大臣はEU、IMF、ECB(欧州中央銀行)の対トロイカを担当し正攻法の資金繰りを模索しているように見えます。

一方、チプラス首相はトロイカに提出されている財政改革案の国内調整で相当苦労しているように思えます。7日付のロイターには「ギリシャ債務問題でチプラス首相は国内から激しい突き上げを受けている。資金枯渇が迫る中、国際債権団には金融支援を得るために改革を約束するものの、国内の支持基盤を損なうことなく大幅な譲歩を打ち出すのは困難な情勢で、危険な綱渡りが続きそうだ」とあります。

元々政権が左派と右派による不思議な連立体制となっているため、極めて慎重な政権運営をしない限り、政権崩壊はいつあってもおかしくないと言われています。チプラス首相の選挙公約した反緊縮財政へのトーンは絶対に譲れないとされる一方でトロイカはその内容に不満なのですからある意味、政権を崩壊させる力があるのはギリシャ内部よりもトロイカの圧力にかかっているのかもしれません。

そのような国家存亡の危機ともいえる中、何を考えているのか、ドイツに36兆円という天文学的な戦時賠償請求を本気で考えているというのですからそれがトロイカを主導するドイツとの何らかの交渉材料になると考えているのでしょうか?驚愕の一言であります。本件は数か月前からあった話でその時からドイツ政府は本件に関して「ギリシャ政府を相手とせず」というスタンスを貫き通しています。同戦時賠償は1960年の賠償金支払いで既に「解決済み」となっています。今さらそれを執拗に言われればメルケル首相は「ドイツはうまくやったのに日本は下手ね」と言えなくなってしまいます。

チプラス首相は8日からロシアに向かう予定になっていますが、それについてもEUはロシアへの経済制裁中であることを理由に(奇妙な約束をしないよう)けん制をしています。

チプラス政権の行動が手あたり次第になっている点で政権の末期的症状が出ているように見えますが、国民の支持率だけは70%台後半と非常に高い水準を維持している模様で国民全体が窮乏生活への反発をしていることがうかがえます。

今回の「ギリシャ騒動」の最大の注目点は主役は誰か?という点にある気がします。緊縮財政に疲れた国民が選んだチプラス首相は期待を一手に背負い、欧州の強豪たちと戦っていますが、基本的にはあっさり跳ね返されて譲歩をせざるを得ないゲーム展開となっています。私はチプラス首相は旗振りの先陣であり、実際にはギリシャ国民の爆発寸前のボイスが主役だとみています。

だとすれば旗振りが十分な活躍をしてくれなければ国民からは選手交代の声が出てきてもおかしくないでしょう。その時、この国はいよいよ迷走の度合いを深め、抜けられないEUとのしがらみ、国際世論、力による意思表示ができない国家を踏まえ、ロシア、中国への接近はあり得るシナリオです。但し、ロシア、中国がギリシャ支援から得られるメリットと欧米を敵に回す損失との天秤にかけた時、どちらが得か考えれば少なくとも中国はその道を選ばないと思います。なぜなら中国にとって欧州は経済成長の生命線になりつつあり、AIIBとの絡み、更には欧州と中国を繋ぐユーラシア大陸の新貿易ルートの開拓が中国にとっての重要な戦略に見えるからであります。

どう考えても今の情勢はギリシャ国民には不利、そして、チプラス政権がどこまで存続可能かも考慮しなくてはいけない状況にあるかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 4月8日付より