規制改革に逆行する安倍政権 --- 井本 省吾

アゴラ

自民党内に、酒の安売り競争を規制する法案を議員立法で今国会に提出する動きが出ている。財務相の示す基準を守らない安売り店は、販売免許を取り消すこともあるという。


2013年秋に成立したタクシーの強制減車法などに続く悪法の登場である。安倍政権は岩盤規制の打破を掲げたはずなのに、やっていることは逆ではないか。
 
安い商品を増やして消費者の生活を豊かにし、利便性を向上させる。そこに、自由市場経済の良さがある。統制経済(社会主義経済)はその逆で、生産側、労働側の利益を守ることに主眼がある。酒の安売り規制も小規模な酒販店の保護が目的だ。

消費者利益と生産者(労働者)利益のどっちに軸足を置いて経済政策が望ましいか。ソ連崩壊に見るように、答えは明らかだろう。

生産・労働側が保護される体制では、消費者の望む商品・サービスが入手しにくい。競争が乏しいからで、社会主義・共産主義体制では、物資不足からモノを入手するためにあちこちで行列ができる。

自由市場経済では消費者に自分の商品、サービスを買ってもらおうと企業同士が競争するので、より良いものが安く入手できる機会が多くなる結果として経済成長が進み、雇用の場がふえ、所得がふえる。

こんな分かりきった教科書的なことをくどくど書かなければならないほど、自民党などにいる族議員は目先の票田確保に血眼になって国民経済の発展を考えない。

族議員の背後には、自分たちの利益、保護だけを考える業界団体、そことつながる天下り先確保に余念のない役人がわんさといる。

なるほど自由市場経済では零細企業が競争に敗れて倒産したり、非正規のフリーターなど生活基盤の安定しない労働者が出たりして、所得格差が広がる。そこで統制経済へと安易な道に踏み込むのだ。そうした不備は職業訓練などの失業対策や生活保護の充実などで補うしかないのだ。

大体、不当廉売の防止については独占禁止法がある。この不当廉売規制そのものが消費者利益の擁護という観点からはかなり疑問なのだから、それだけで十分なはずだ。

それなのに、国税庁は2006年、酒の過度な安売りをやめるよう取引指針を出した。原価割れ販売をしている店を注意や指導するのだが、法的な強制力がなく、量販店に加え、ネット販売の参入もあってなかなか安売りが収まらない。そこで、今回の法案では酒税法を改正し、注意しても安売りをやめない店は名前などを公表、それでもダメなら罰金を科したり免許を取り消したりできるようにするという。

庶民が喜ぶ安売りをしたら免許取り消し。これほど消費者の利益を無視する法案はないだろう。免許取り消しを恐れる企業は安売りをやめ、経済は萎縮する。

タクシー料金の値上げを促すタクシー業界への規制強化。なかなか進まぬ農業への株式会社への参入規制。こんなことばかりやっていて何が岩盤規制の撤廃だ。羊頭狗肉、成長戦略を掲げるアベノミクスの看板に偽りありと言いたい。

外交安保政策では評価しているが、経済政策では悪い方に後退している印象がある。安倍首相の自民党内での政権基盤が安定しないためかも知れないが、恐れることはない。沈黙の大衆は自由市場経済と岩盤規制の撤廃を支持している。

英サッチャー政権がやったように、摩擦を恐れることなく、岩盤規制の撤廃を進め、アベノミクスが看板倒れにならないようにしてもらいたい。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年4月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。