誤算AIIB、もう一つの問題を考える

岡本 裕明

AIIB(アジアインフラ銀行)が想定を超えた創設メンバー国を集め、その勢いはまだ止まりません。主要国、地域で参加を表明していないのはアメリカ、カナダ、日本、台湾ですが、カナダはかなり前向きに検討しており、メディアのトーンからはかなり近い時期に参加表明をするとみられます。特に同国は中国元の取引市場の創設など中国との経済的タイアップを強化している中でAIIBにいまだに参加表明しない理由が見つかりません。

アメリカと日本が本件で難しい判断を迫られています。その背景のもう一つの本質を考えてみます。


まだ第二次世界大戦中、アメリカが中心となり連合国通貨金融会議が45か国参加のもと、ニューハンプシャー州のブレトンウッズで行われ、1945年にそれが発効しました。目的は大戦を通じて疲弊した世界経済の復興であり、IMF(国際通貨基金)とのちの世界銀行になる国際復興開発銀行が設立され、為替の安定のため、ドルを基軸通貨とし金1オンスに35ドルという金本位体制を作り上げました。

IMFは為替の安定や国際収支で問題が生じた場合に比較的短期の資金を提供することでその危機からの脱却を援助するものです。ギリシャや97年の韓国などは正にそのケースでありました。

一方、世界銀行は戦後復興という長期的視野に立って資金を提供してきました。東海道新幹線は世銀の資金があったからこそできたのです。が、戦後復興がほぼ、一巡したために新興国や途上国などのインフラなどの整備にその目的が移っています。

この二つの金融システム、そして途中で放棄した金本位体制を含め、そのキーワードはドル基軸であります。通貨の長い歴史を見るとそれまでのイギリスのスターリングポンドから両大戦間の頃に急激に伸びたアメリカのドルにそのバトンは渡され、ブレトンウッズ体制でドルが絶対的な通貨になったと言ってよいでしょう。更に金本位から離脱した71年にブレトンウッズ体制は終焉したとされますが、ドルは金の信認も引き受けた形となり、実質的にはその体制目的は強化されたと言ってもよいのです。

そしてその体制の実質機関であるIMFと世銀はアメリカ主導のもとIMFのトップは欧州から、世銀トップはアメリカから出るという暗黙の了解がかつて破られたことはありません。日本は融資を受ける時代から出資をする側となり、今ではアメリカに次ぐ出資比率でそのシステムを強力にサポートしているのです。

こう見るとAIIBにアメリカが強力に反対しているのは正に通貨戦争であるともいえ、ドル基軸が揺らぐ最大の危機にあるともいえるかもしれません。AIIBが始動すれば中国元がその主役となることはほぼ明白でドルの流通力はユーロの誕生以来の影響力減が確実視されることになります。現時点ではドルは6割以上の通貨流通量を誇りますが、仮に5割を切れば基軸通貨としての信認は確かに揺らぐかもしれません。

では中国元がどれだけ信頼できるか、といえばこれはまださっぱり分かりません。為替も通貨バスケットによる管理相場ですし、経済の実態が共産党主導体制で不自然な力関係が生じやすい中、リスクファクターが当然発生してしまいます。

安倍首相が習近平国家主席とインドネシアで首脳会談を模索している報道されていますが、そのお土産としてAIIBに日本がお付き合いすることにならないとは限らないでしょう。が、元来、日本がAIIB参加に腰が引けているのはそのあたりの透明性と安定感に不安を感じているのだと思います。

一方で、私はドル主導の経済がいつまでも続くわけでもないと思っています。ユダヤ主体のその戦略は今日まで非常にワークしてきたと思いますが、グローバリゼーションが進む中でドル一辺倒はそろそろ時代遅れになってきていることは事実です。かつてはドルから円への橋渡しのチャンスもあり、一時期、「円の国際化」も騒がれましたが、これはほぼ完全に失敗しました。

AIIBというのはそのシステムそのものよりも日本が失敗した国際金融システムへの影響というもっと大きなピクチャーが内包されているとみてよいでしょう。これは中国の壮大なチャレンジであります。

日本が仮にAIIB参加表明をすればアメリカの敗北を意味し、将来的に無限の輪転機でドルを刷り続ける魔力を失うきっかけを作るかもしれません。これが強力なドル安円高を引き起こすトリガーとなることには大いに留意すべきでしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 4月20日付より