困難になる中小企業の事業継承

岡本 裕明

366年続いた旧東海道の宿場町、愛知県豊川市の大橋屋という老舗旅館が閉館したそうです。(日経ビジネスより)その理由は後継ぎと考えていたご長男がその意思を変えたため全面依存していた経営者はその突然の変化に代替案を立てられずやむなく閉館の道を選択したというものです。


創業者の影響力が大きい大企業のバトンタッチが話題になります。ファーストリテイリング(ユニクロ)、ソフトバンク、スズキ自動車、セブン&アイ、日本電産…と枚挙に暇がありません。これら大企業でもその事業継承者が慎重に検討され、最近の傾向は一人ではなく複数の経営陣を視野にしたケースも見られます。

ユニクロの柳井正社長は以前、社長のポジションを玉塚元一氏(現ローソン社長)に譲ったもののすぐに社長復帰したのは任せられないという明白な理由でした。最近では大塚家具の父娘騒動の記憶が新しいですが、創業者は地位を禅譲しても一定の影響力を残したい上に自分の作り上げた経営方針がそのまま軌道修正することなく伸び続けることに一種の期待をするものです。それが出来なければ「俺がやる!」と社長復帰劇が起きるわけです。これは上場会社でも全く珍しいものではありません。

それでも上場会社は英語ではパブリックコーポレーションというぐらい「公のもの」ですからその株主はいろいろな方がいます。IRを通じて会社の中身も公表しているわけですから経営は一定の常識観と第三者が納得するものではなくてはいけません。そのためにも役員会などで集団合議をする癖をつけ、役員や執行チームが考え、責務を負い鍛え上げる仕組みがそこにあると言えます。

ところが冒頭の様に非上場の一般の事業者においては経営や株主に外部のブラッドが入っていないことが多く、事業が創業者の年齢と共に止まってしまうケースは今後相当増えてくる可能性があります。私のある知っている企業は上場こそしているものの親戚が大株主となっていました。本命の社長継承者が事故で亡くなったことで親戚の間で内輪もめが発生、その後、株主間で分裂が生じてしまいました。

経営や事業をお手伝いした身内にとって事業継承は相続税のもめ事と同様、カネと権力が絡むとてつもない騒動となるのでしょう。残念ながら目先の価値に目がくらんだ継承者は事業をきちんとドライブできないケースが多いのも事実であります。

中小企業も日本経済を大きく支えています。その中で事業継承がスムーズに進まないと日本経済の基礎体力の損失にもつながり憂慮すべき事態となります。かといって事業継承がある日突然できるわけはありません。オヤジは中小企業の社長、息子はサラリーマンで我関せず、という家族も多いでしょう。しかし、多くの個人事業者の年齢は70代を超え、一刻も早い継承が望まれます。

起業に関する本は割と多いのですが、事業継承のテクニックを説いた本は案外少ないものです。その難しさは起業以上だろうと思いますし、それがうまく引き継がれなければ日本経済の尺度であるGDPにも当然影響してくるのです。GDPばかりが物差しではありませんが、世界第三位のこの経済規模をどう維持するのか、少子化問題と共にもっと注目されてもよいのではないでしょうか?

私にも複数の相談がもちかけられていますが、その悩みは奥深く、いつもなら歯切れよくお答えできる質問でもこればかりはうーんと唸ってしまいます。

日本の経営力をもっと真剣に捉え、その解決策を見出さなければ日本の底力は本当に苦しくなってくると思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 4月21日付より