地中海が本当に墓場となった! --- 長谷川 良

アゴラ

当方はこのコラム欄で「地中海が墓場になる!」というタイトルのコラムを書いた。2013年10月17日だ。そして15年4月20日の今日、「地中海が本当に墓場となった!」を書いている。リビアとイタリア最南端の島ランべドゥーザ島沖の間で18日から19日にかけ700人余りの難民を乗せた船が沈没し、犠牲となったというニュースを聞き、「地中海が文字通り、墓場となった」と感じたからだ。


マルタのジョセフ・ムスカット首相は13年10月12日、イギリスのBBC放送とのインタビューの中で「欧州連合(EU)は空言を弄するだけだ。どれだけの難民がこれからも死ななければならないか。このままの状況では地中海は墓場になってしまう」と嘆いたが、その嘆きが残念ながら現実となったのだ。今年に入って1500人以上の難民が地中海で溺れ死んでいる。昨年は3419人の難民が地中海で亡くなっている。

同首相の嘆きは、イタリア最南端の島ランペドゥーザ島沖で13年10月3日、難民545人が乗った船が途中火災を起こし沈没し、360人が犠牲となった事故直後に飛び出した。今回は約700人、ひょっとしたら900人以上の難民が溺れ死んだという情報が流れている。

欧州社会は犠牲者の数にショックを受けている。オーストリア国営放送は19日、「過去、最大の犠牲者が出た模様だ」と報じ、抜本的な難民対策をEU諸国に求めている。人道的観点から難民の受け入れを要求する声が政治家たちから一斉に聞かれる。EUのフェデリカ ・モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表は、「欧州は躊躇している場合ではない」と、加盟国に緊急の対策を呼びかけている。ドイツのシュタインマイヤー外相は、「難民を欧州に運ぶ人身売買組織への対策を強化すべきだ。そしてリビアに安定した民主政権が発足できるように支援すべきだ」と指摘。オーストリアのミクルライトナー内相は、「リビア国内に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が管理する難民収容所を設置し、難民審査を実施し、難民と認められた人だけを欧州に送る体制を作るべきだ」と提案している、といった具合だ。

EUは13年の悲劇を受けて北アフリカ・中東からの不法移住者の動向を迅速にキャッチするために監視システムの構築を決定。イタリア当局は海難に遭遇している難民ボートを救済するため海上警備を強化することを決定したが、問題は救援した難民をどの国が収容するかだ。その点ではEU内で解決の見通しはこれまで立っていない。

国内に外国人問題を抱える欧州では難民の殺到は治安問題に発展しかねない危険がある。そのうえ、難民の中にイスラム過激派組織のメンバーが潜伏しているという情報も流れ、どの国も難民の受け入れには慎重だ。また、難民を運ぶ人身売買組織の暗躍も大きな問題だ。救援された難民の一人は、「われわれは950人ほどが船に乗っていた。人身売買業者はわれわれを船底の部屋に閉じ込め、鍵をかけ出てこれないようにした」と証言している。

通称“アラブの春”と呼ばれる民主化運動は中東・北アフリカ地域の政情を激変させると共に、イスラム過激派の台頭をもたらしてきた。そして大量の難民が紛争地から逃れ、安全な地を求めて移動を始めているのだ。

難民問題はもはや一国の次元で解決できる課題ではない。EUは加盟国と連携してその持てる全ての人的、経済的資源を投入して、難民救済に当たるべきだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年4月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。