アメリカ マクドナルドの新CEO、イースターブルック氏が発表した再建案をみて正直、驚きました。世界全体のフランチャイズ比率を現在の約81%から90%までに引き上げるというのです。この意味はマクドナルドの事業形態を知らないと理解しにくいので解説しますが、結論から言うと短期的な効果はありますが、長期的に経営の逃げ道をなくす極めて危険な賭けとなる気がします。
マクドナルドのビジネスは概ね二つの流れがあります。一つは本来の事業であるハンバーガーレストラン業でもう一つはフランチャイズという名の不動産業であります。マックが実は不動産屋だという話を聞いたことがある人もいると思いますが、正にこのことを指しています。
直営店をフランチャイズに変えるとはどういうことでしょうか?まず、マックは本体で出店予定地の土地、建物、設備を取得します。直営ならそのまま経営しますが、それをフランチャイズに転換する際にはフランチャイジー(出店経営者)と賃料契約をします。この賃料はマックの実際の不動産コストよりもはるかに高い価格となる売上ベースの価格が設定されます。日本の場合ロイヤルティを含め、ざっくり売り上げの25%ぐらい持って行きます。(アメリカでは土地代が安いためこれより低いようです。)
つまりマックはフランチャイズを増やすことにより各店舗から上がってくる賃料が実質的なFC収入として計上されるのです。また、直営店をFCに売却すれば売却利益が出るため、FC比率を増大させている間は確実にFC収入が上昇する仕組みなのであります。
じつはこのメリットは単なる利益の増大のみならず、本部側の人件費や管理費、広告宣伝費負担が下がるため、ROAをはじめ、各種経営指標が改善するようになっています。直営店主体の時代にはROAが低くその改善が求められていました。
ところがこの手品もいつまでも使えません。なぜなら増やし続ければいつかは直営店が無くなるからです。日本では直営6割、FC4割ぐらいだったのが今、その比率が逆転しているはずです。これは原田CEO時代の産物であります。
では、マクドナルドがいつから不動産屋に転じたかといえば2005年11月にアクティビストのヘッジファンドで同社の株式約5%を所有していたビル・アックマン率いるパーシングスクエアキャピタルが同社に事業再編案を公開し、ほかの株主に同調を求めたのがきっかけだと思われます。それを受けてアメリカでも日本でもFC比率の変動が始まっているわけです。これは目先の効果があるため、株価上昇となり、ヘッジファンドとしては実に旨みがありますが、それがマクドナルドのビジネスの骨組みを変えてしまったともいえるのです。
直営を減らし、FCを増やす効果は本業が好調である時には問題ありません。ところが本業が不調でフランチャイジーの経営が行き詰まるとそのフランチャイジーを本体が買い戻す必要が出てきます。(この手の不動産は市場性がないので簡単に第三者に売却できないためです。)また、一部のフランチャイジーは相当数の店舗を運営しており日本では3桁数を運営するところもあります。その経営基盤はすべてハンバーガーの本業が担保であって本業が行き詰ればFCそのものはガラガラと音を立てて崩れることになります。
冒頭申し上げたようにマクドナルドはハンバーガーレストランであります。北米に行けばハンバーガーは何処でも食べられる最も手軽な外食でありますが、その激しい競争の中でマクドナルドはハンバーガーに力を入れるよりもフランチャイズを通じた不動産業に傾注しているともいえるのです。
事実、マクドナルドの大ヒットはビックマックですが、その後、クォーターパウンダーやメガマックはあったもののハンバーガーとしてのバンズとパテの組み合わせビジネスから脱却できず、新鮮味に乏しい状態が続きます。
そんな中、新CEOの打ち出した戦略が再びFC比率なのかと思うとこの会社はハンバーガー屋をやるつもりがないのではないかという気がします。
巨大なチェーンと化した飲食産業は時代にマッチした方向転換が出来ないことが往々にしてあります。例えばスターバックスは私はコーヒー店ではなくSNSの場を提供するサービス産業だと考えています。スタバの経営本を読んでもそちらの説明が全体の9割を占めます。同様にマックの経営本もFCの説明が9割を占めます。それ故私はスターバックスもマックと同じ道を辿らないとは限らないと申し上げているのです。
コーヒーも今やサードウェーブの時代。エスプレッソがいつ廃れるか分からないのです。その時、スタバが業態を簡単に変えられるのか、これは疑問でしょう。これはチェーン店に於いて巨大化すればするほど本来あるべきビジネスの欠陥をアメリカ式ビジネスのテクニックによってカバーするスタイルに変わっているともいえるのです。
今日のポイントはアメリカ式経営の行く末であります。私がMBAをそこまで評価しないのは数字をいじるだけの机上の戦略は指標的な目標を設定するだけでいつかは必ず行き場を失います。日本式経営のように現場主体で下から積み上げた強固なビジネス基盤の上にアメリカ式マネージメントを載せるときわめて効果的であるともいえるのです。
アメリカ式経営を主体に展開したのが原田さんでした。だから、途中まで素晴らしかったものの、現場がぎすぎすした時には手遅れだったという事であります。私はアメリカ式経営を否定はしません。ただ、日本式経営と良いとこどりをする器用さが必要だと思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 5月6日付より