その一勝の大きさが大事~柳井正、孫正義、稲盛和夫~

先々月13日のBLOGOS記事「稲盛和夫氏と柳井正氏の経営スタイル」の中で筆者は、「柳井氏や永守氏はジャングルの中で道を探し、何度も迷走しながらも確実に進んでいくタイプで、稲盛氏はその荒れくれた道なき道を伐採、整地、舗装し、素晴らしい道を生み出すスタイルでありましょうか?」と述べられています。また筆者曰く、稲盛経営によっては「いわゆる優等生はでますが、スーパーヒーローはまず排出できない仕組み」だということで、逆に柳井さんは「失敗プロジェクトが多かった代表的経営者」であるとしています。


夫々の論者に夫々の見方がありますから、それはそれで別に私が否定するものでもないとは思います。しかしながらそれは少なくとも、両者を存じ上げている小生の稲盛経営や柳井経営に対する感じ方とは全く違ったものであります。

両経営者に関して私見を申し上げるとすれば、どちらの御方もリスクに対して非常に敏感であり、そしてまた、どちらの御方も「チャレンジ精神の旺盛さにおいては圧倒されるもの」があると思います。此の点はソフトバンク孫さんも同じだと思います。

6年半程前に出版された『世界のビジネスを変えた 最強の経営参謀』というの中で、「孫正義氏の戦略参謀かつソフトバンクのCFOとして、数々の大型買収、提携などを手がけていた」当時の私のことが、「ソフトバンクの躍進を支えたM&Aの仕掛人」として紹介されているようですが、私は単に資金面だけを取り仕切っていたわけでなく、孫さんと一緒になってソフトバンクの経営戦略を如何にするかということから始まり、その上で資金調達をどのようにして行くのかといった面にずっと携わってきました。

孫さんの投資を例に見てみても、95年CFOとして私がソフトバンクに入社して以降、ジフデービスやコムデックスあるいはキングストンテクノロジー等々、その他孫さんが買いたいと言われた沢山のネット企業を次々買収してきたわけですが、その結果は言ってみれば惨澹(さんたん)たるものです。

しかし、ヤフーであれアリババ集団であれ当たったのは大きかったわけで、その御蔭で今日のソフトバンクがあると言っても過言ではないと思います。つまり「一勝九敗」であっても、その一勝があるということが大事であり且つその一勝が大きいということが大事なのです。

「一勝九敗」とは1割当たるということですが、此の成功確率は極めて高い数値と言えましょう。例えば、SBIインベストメントは1995年から~2015年までに661社に投資を実行し134社(20.3%)イグジットしたという輝かしいベンチャー投資実績があります(2015年4月1日時点)。

投資の世界で20.3%とは、世界的な評価を得る成功確率です。事業をやるという場合に「一勝九敗」であれば、大変難しい成功確率を達成していると言えるもので、また更には柳井さんにしろ孫さんにしろ稲盛さんにしろ、どれだけ大なるものを創ってきたかというわけです。

「失敗プロジェクトが多かった」云々といった類は、彼らを語る上で殆ど無意味な観点です。それは全て緻密な計算の上でのチャレンジであると思われ、ドタ勘でチャレンジして彼らの如く大成功を収めるなど有り得ない話です。

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