金正恩の驚天動地の選択肢

現在取り組んでいる仕事の為に、殆どの週末を国外で過ごす破目となり、長い間アゴラへの出稿を休ませて頂いてきた。久しぶりの出稿がこのような奇想天外なものだと、私が実は精神を病んでいたのではないかと疑う人もいると思うが、私は正気だ。

私は以前から「もし私が彼ならどうするだろうか」と深く考えてみる性癖があるが、ソフトバンクの孫社長、シャープの社長、グーグルの社長、オバマ、ヒラリー・クリントン、プーチン、習近平、ギリシャの首相、等々に飽き足らず、ここ数日は「自分が金正恩なら」と考えてみた。それ程に、現在の朝鮮半島は、充満したガスが今にも爆発点に達しそうな危機的状況で、金正恩はある意味で「追い詰められている」と感じたからだ。


考えてみれば、金正恩は本当に気の毒な人だという気がする。金正日が予想以上に早く亡くなり、十分な経験も積まず、準備もしないうちに、国のトップに押し上げられてしまった。張沢民に裏切りの匂いを嗅ぎ取ると、怒りに任せて殺してしまった。こうなると、誰がいつ敵になるか分からないという疑心暗鬼から、粛清に次ぐ粛清を行わざるを得なくなった。

しかし、こうなると、虎視眈々と復讐の機会を狙う敵をあらゆるところに作る事になり、しかもその数は日ごとに増えていく。ほんの小さな蹉跌で敵に先手を取られ、逆に自分が殺される危険性も毎日増大していく。このままでは、未来永劫、いつまでも安息の日は訪れない。

朝鮮民族はとりわけ恨む事の激しい民族だから、金正恩を倒して復讐を果たし、実権を手に入れた人たちは、金日成の銅像を壊したり、金正日の墓を暴いたりしないとも限らない。こんな事がもし起これば、単に三代続いた金王朝を崩壊させた罪科だけでなく、子として孫として、父と祖父に対し最大の不孝を犯してしまった事になる。彼とても、こんな事だけは何としても避けたいだろう。

避けられる可能性はあるだろうか? 「もし彼が世界をあっと言わせるような大逆転の発想をすれば、可能性は十分にある」と私は考える。それだけではない。この事によって、彼は、ノーベル平和賞の受賞候補者となるのは勿論、「東洋に忽然として生まれた不出生の偉大な英傑」として、世界の歴史の中で長く語り継がれる事になるだろう。

下記がそれを可能にするシナリオである。重ねて言うが、私は別に気が変になったわけではなく、自分自身を金正恩だと思って、この事がもたらす得失を、論理的に突き詰めて考えただけである。その結果として、彼が自分自身と家族の身を守り、未来永劫に心の平安を得る為には、これしかないという結論に達したにすぎない。

1)軍部や政府機関内での粛清を更に加速した上で、自分に現時点で絶対的な忠誠を誓っている直属の精鋭部隊を除き、陸軍の大部分を武装解除し、武器を捨てたこれらの兵員を「農業支援隊」「産業建設隊」として再組織して、各地に配属させる(廃棄した武器は、陸続きの中国軍に一時的に引き取ってもらう)。

2)同時に全ての核施設を公開した上で、その解体を一方的に宣言する。これと並行して、解体された既存施設の機器類を最大限に利用する形で、米国と日本の協力を得て、原子力発電所を数カ所に建設する。

3)上記の見返りに、韓国、中国、米国、日本の各国から「世界平和を実現する為の勇気ある決断を行った金正恩政権を支持し、その継続を出来る限り保障する」旨の確約を取得すると同時に、「最大限の経済支援」の約束も取り付ける。この「経済支援」は、民生安定の為の「緊急無償支援」と、インフラ構築及び産業育成の為の「投融資」からなるものとする。

4)現在の開城の工業団地に加え、あと二つか三つの工業団地を韓国と共同で建設する他、中国、及び日本との間でも同様の事を行う。また、シベリア東部から韓国に至るロシアの天然ガスのパイプラインが、自国の領土内を通過する事を許容し、ここから分岐したパイプラインを利用して幾つかの火力発電所を建設する。

5)これまで板門店で継続的に行われてきた「休戦」交渉を「終戦」として妥結させる。また、韓国との間でも戦争状態の終結を宣言し、全てのトンネルを公開した上で閉鎖、これと並行して、両国間での連邦政府の樹立交渉を加速させる。

6)日本と韓国から拉致された被害者については、生存している全ての人たちを直ちに無条件で帰国させる。

7)日本政府は、かつて、「当時の韓国政府が朝鮮半島における唯一の正当な政府である」という前提の上に立って、韓国政府との間で「全ての請求権に関する包括協定」を締結したが、あらためて「現在の金正恩政権は朝鮮半島の北半分を統治する正当な政府である」と遡及的に認め、この政権との間で新たな請求権協定を締結すべく交渉を開始する。

以上である。

「そんな事が出来る筈はないじゃあないか」「無法と姑息な駆け引きを繰り返してきた北朝鮮という国も、今なお乱暴な言動を繰り返している金正恩個人も、到底信用するわけにはいかない」という声がすぐに聞こえてきそうだが、そう言う人たちは「何故出来ないのか」を具体的に説明してほしい。また、「信用」の問題については、もしこのような事が本当に行われれば、その事自体が「この国が全面的に信用出来る」事を証明するものだから、もはや問題にはならない筈だ。

金正恩の年齢が若い事や、政権が不安定な事を指摘する人たちは多いだろうが、現実問題として、現在の金正恩は、一時的にしろ「世界の誰も持っていない程の独裁的な権力」を一手に握っているのだから、やろうとすれば何であれ出来ない事はない。年齢は何の関係もない。いや、むしろ、若いが故に、世界があっと驚くような「大胆不敵な逆転の発想」も出来るのではないだろうか? 要するに「彼自身が一個人としてどのように考え、どのように決断するか」だけが全てだ。

日本の一市民が書いたこんな記事に、まさか北朝鮮政府が反応する事はないだろうが、もし彼等が「妄言」としてこれを攻撃するようなら、私はあえて彼等に尋ねてみたい。「これで貴国が失うものは何かありますか? 貴国にとっても、また世界中のどの国にとっても、良い事ばかりじゃないですか?」と。