派遣労働とは労働契約のアウトソーシングである

川嶋 英明

派遣労働の本質は労働契約の外注、アウトソーシングにあります。


派遣労働では、実際に労働者が業務を行うことになる派遣先の会社とではなく、派遣元の会社と労働者が労働契約を結んでいます。つまり、人材派遣会社は労働者を派遣するだけでなく、労働者を採用したいと思っている派遣先に代わって、労働者と労働契約を結び、有給や休日手当といった労働契約に係る様々な法的義務を派遣先の代わりに請け負っているのです。

では、なぜ企業は雇用契約をわざわざアウトソーシングするのでしょうか。それは、日本の労働法制上では、雇用契約のコストが非常に高いからで、そのコストを飛躍的に高めているのが非常に厳しい解雇規制です。ここでいうコストとは金銭的なコスト以外にも時間や手間といったものも含まれます。

日本では労働者を簡単に解雇できない(厳密に言えば司法に正当な解雇と認められる可能性が限りなく低い)ため、大卒の新卒労働者を雇用すると、ほぼ自動的に22歳から65歳までの43年分の賃金支払いの見込みが発生します。加えて、正規雇用の場合、非正規と比較して手当も手厚いことが多く、また、月々の社会保険や雇用保険の保険料もかかります。もちろん、就業規則に退職金の定めがあれば、それも見込んでおかなければなりません。

また、せっかく雇ったからには戦力になってもらわないと困るわけですが、1人前に育てるための教育や研修、これもOJT、OffJT問わずコストになります。

それでも、使えない、素行に問題があるなどの理由で労働者を解雇し、その結果、裁判沙汰となれば、ほぼ会社は勝てない上、労働審判で終わればだいたい100万円ほど、それで決着がつかず労働裁判まで行ってしまうと最大で2千万円くらいの出費は覚悟しないといけません。それでなくても、大企業になればなるほど、大企業で労働裁判が発生しただけで今はマスメディアが黙っていませんから、イメージ面での損害は避けられません。逆に、それを避けるために使えない社員を抱えることそれ事態もまたコストであり、再教育するとなるとこれまたコストになります。

ちなみに、労働問題で痛い目にあったことのある企業ほど、以後こういったことがないようにということで、社内制度として、連絡体制の強化や始末書やレポート作成の徹底が行われるようになっていきますが、今までしてこなかったことを行うということはそれだけ手間と時間がかかるわけですから、その分コストがかかっていると言えます。

このように労働契約、それも正規雇用の労働契約にはこうした多額のコストが見込みも含めてかかっているのです。

しかし、派遣労働者ならば、派遣先がこうしたコストを負担することはありません。せいぜい、仕事を覚えてもらうためのOJTにかかる程度で、それも多くの場合、非熟練的な業務なので正規雇用よりも簡易的です。そして、派遣された労働者が使えないときには、派遣元へ交代要請もできます。また、障害者雇用にしても、派遣労働者はあくまで派遣元の労働者の扱いとなるので、派遣労働者をいくら雇っても、障害者の法定雇用者数に影響を与える派遣先の労働者の総数が増えることもありません。これだけの利点があれば、派遣元へ高い手数料を支払っても派遣先は十分元が取れます。

現在問題となっている派遣労働の10.1問題は、前回の派遣法改正で法定の3年を超える違法派遣があった場合、派遣先がその派遣労働者を直接雇用しないといけない、ということに端を発しています。前回の法改正からちょうど3年が経つのが今年の10月1日なので、このまま派遣法が改正されないと今年の10月1日を境に派遣労働者の雇い止めが大量に発生するだろうと予測されているわけです。

このような法律を作った当時の民主党政権がこうした派遣労働の本質を理解していなかったことは明確で、委託先を変えることはあっても、一度アウトソーシングしたものを再び内部で行うというようなことはビジネスの世界ではほぼありません。ありうるとすれば、派遣労働者を雇うことよりも内部で労働者を雇うことのほうがコストパフォーマンス等の面で会社に利益がなければいけませんが、労働契約法の5年ルールや積み上がる判例により、労働契約のコストが高まる一方では、望みようもありません。

よって、現在国会で審議されている改正労働派遣法がどのような決着を見ようと、派遣法だけで現在の派遣労働の問題が解決することはありえません。正社員の既得権をある程度維持したまま派遣社員の雇用を守るなら、「法律による雇い止め」をなくすため派遣期間の制限を撤廃することが最善手であり、逆に派遣労働者と正規社員の格差を解消する気なら、正社員の解雇規制の緩和に手を付けるしかないからです。

川嶋英明(社会保険労務士)