テレビ随想:テレビ?ふとんの中で見てるさ --- 中村 伊知哉

「テレビ?ふとんの中で見てるさ。」チャンネル権を喪失した同僚のオヤジがグチる。ケータイでテレビを見てるんだな。ワンセグだな。よかったじゃねえか。昔なら寝床でも便所でも見られなかったんだから。


ワンセグ。ケータイだけじゃなくて、クルマについてる画面でもクッキリと見えるようになりましたよね。地デジの電波を使ったサービスで、普通のテレビと同じく、タダ。

これとは別に、スマホ向けの有料テレビもあります。「NOTTV」というサービスです。これは地デジができるまで使っていたアナログテレビの電波帯を使っています。

地デジはテレビをキレイにするだけじゃなくて、電波の土地区画整理という意味合いが大きい。平屋建てのように使っていたアナログの土地から、高層ビルのように効率よく使えるデジタルの土地にテレビが引っ越す。そして空いたアナログの跡地を有効活用する。

その跡地もデジタルで高層化して、つまりチャンネルを増やして、ケータイという通信機にテレビ放送を届ける。通信と放送の融合というやつです。しかもその会社はNTTドコモが筆頭株主。通信会社のカネで放送が行われているのです。

アナログの跡地にはまだ空き家があって、もう一つ計画があります。「マルチメディア放送」です。スマホやパソコンやデジタルサイネージなど、マルチなメディアに向けて新種の放送を届けるプラン。テレビやラジオっぽい番組だけじゃない、新しいアイデアが練られています。

企画しているFMラジオ局に計画を聞いてみました。
「番組をぜんぶ文字起こしして、ツイッターやフェイスブックと連動させます。」「新聞や雑誌の誌面をそのまま届けることもできます。」まるでネットだね。「自動車会社がカーナビに使います。」ちょっと待って、それって思い切りネットだよね。というか、アプリだよね。

そうなのです。実は日本では、放送の電波を使って通信っぽいサービスを行うという、海外ではできないことができるように制度が改められていて、それが実現するのです。こちらはNOTTVとは逆に、放送局が通信ぽいことをする、ということです。

ぼくが期待しているのは、電波の時間貸し。放送の電波なら、全国の子どもたちが学校で使うタブレットに、教科書を一斉に送ることが瞬時にできます。市役所や村役場が緊急の防災情報を送ることもできます。

使う側としては、通信でも放送でもどっちでもいい。FMラジオでもテレビでもネットでもない、世界にもまだないサービス。たくさん生まれてくれるとうれしい。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2015年5月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。