どこまで進む円安ドル高

「為替のことは為替に聞け」ですから再び円安に走り始めた為替相場がどこまで行くのかそのゴールは誰も分かりません。専門家は対ドルで127-130円を目指す動きと解説しています。今日はこの前提とそのシナリオの可能性について考えてみたと思います。


まず、基本的なことですが、「今、なぜ再び円安なのか」との質問があれば、「今、なぜドル高なのか」と言い替えるべきと指摘したいと思います。今回の円安局面の為替相場は円に動機があるわけではなく、アメリカが利上げをしそうだという期待からドルが買われているものでユーロやカナダドルを含め主要通貨には強含んでいます。その中に円も入っているだけで円の独自の理由で安くなっているわけではありません。

今週に入ってのドル高の動きは先週金曜日にイエレン議長が諸条件が整えば今年中には利上げに踏み込む可能性を示唆したためであります。ただ、議長発言が何か新たなる指標等に基づく発言というより以前から繰り返している一般論にやや踏み込んだ形となったため市場が明白な動きを示したものです。

しかし考えてみればこのアメリカの利上げ話はもうすでに2年以上もやっているわけで円が80円から124円台まで5割以上円安になった大きな要因の一つであります。仮にこの可能性の話を延々とやっていれば更に5円、10円という円安を引き起こすそのメカニズムは市場心理以外の何ものでもなく論理性は不十分であると言わざるを得ません。

例えば株価ならば分析の技術が進み、市場の評価、同業他種との比較などある程度の妥当価格が算出されます。ところが国家の株価ともいえる為替は相対という関係で成り立っていて為替評価が絶対基準ではないところにミソがあります。(為替の歪性を補うために絶対評価の為替市場を作るという発想があっても面白いとは思いますが。)

よって今後3か月以上にわたりFOMCの人たちが妥当と考えるだけの経済指標が揃うのか、あるいは、そうなり、利上げに踏み切ったとして市場が期待するほどの利上げ幅と今後の利上げスピードになるのか、そのあたりが十分に加味されているのか疑問は残ります。

イエレン議長は雇用と共にインフレ率も十分ではないと指摘しています。アメリカから見ればドル高になれば輸入品は安くなりますから輸入物価の下落によりインフレ率にはマイナスのバイアスがかかりやすくなります。あるいは利上げ幅についてかつてない緩やかなものになると示唆されている以上、0.25%という幅ではなくもっと刻みの小さい0.1%か0.15%といった水準になるとみた方がよさそうです。仮にその程度の幅であればドルは買われすぎていることになります。

では他に理由があるとしたら何でしょうか?円やスイスフランはセーフヘイブンとして買われる通貨でありますが、今回、ドルがその役割を果たす可能性を否定できない気がします。まず、ユーロ圏ですが、ギリシャの行方は混とんとしています。イギリスのユーロ圏離脱の国民投票も控えます。いわゆるユーロ圏の一枚岩が欠け始めるリスクが存在します。

二番目に中国のリスクがあります。とにかく実態が分からないことだらけですが、最近もっと気になっているのは習体制のリスクであります。今は万全でありますが、腐敗撲滅運動を通じて習近平国家主席は敵を作り過ぎました。この体制では持ってもあと数年でその後、混乱期を迎える気がします。その際、今までのベールがはがれてしまい中国の実態と脆弱性が指摘されやすいことは歴史の繰り返しともいえそうです。私が何度か書いたオリンピック10年後説(=大きな不況や経済困苦が起こりやすいこと)を思い出していただければと思います。中国の場合は2018年となります。

中国の不調は当然ながらロシアにも響くわけで地球儀ベースで見れば目先安定しているのはやはりアメリカという事に落ち着くのだろうと思います。これが私の考えるドルセーフヘイブン説であります。

一方で円の通貨としての価値をそこまで暴落させる必要もない気がします。世の中、一方通行のトレンドはなく、必ず、どこかでピークをつけます。それがどこなのか、これから探り合いが進むのでしょう。それにしてもここまで米ドルが高くなるとアメリカ旅行にもおちおち行けなくなりそうです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 5月29日付より