生レバー狂騒曲

朝日新聞のこの記事(http://www.asahi.com/articles/ASH623K3RH62ULBJ002.html)にあるように2015年6月12日から、すでに禁止されている飲食店での牛生レバーの提供に加えて、豚の生レバーも規制されるということで巷では話題を読んでいる。

実際の危険性についてはhttp://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/08/h0819-2a.htmlに詳しく書いてあるし、すでに2012年からhttp://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002l7y7-att/2r9852000002l81y.pdfのような文書で注意喚起されている。

ところが一方で例えば毎日新聞のこの記事(http://sp.mainichi.jp/select/news/20150527k0000e040219000c.html)などがマスコミ並びに一般市民の代表的な意見のように取り上げられている。
(そもそも1食分の摂取程度では健康への影響は皆無と断言しても良い放射能基準値越えの食品については大騒ぎして否定的な記事を書いておきながら、1食分の摂取で明らかな被害が発生している生レバーについては肯定的とも取られかねない記事を書く一部マスコミは明らかに整合性を欠いている。)

その他のネットの意見なども含めると生レバーの擁護意見は、
・生の方が安くておいしい
・生食は食文化である
・鮮度管理しているのに・・・
・免許制にすればいいのでは?
・他の食中毒をおこしやすい食材があるのに生レバーをなぜ規制するのか?
・また他の肉・内臓の生食を提供する店が出てきてきりがないので規制は無意味
などなどであるが、いずれもどこか考え違いをしている。

「安くておいしい」とか「食文化」などというのはあくまで、安全な食材・料理であることが大前提である。正しい食文化や伝統とは医学や公衆衛生学が未発達な時代から、多数の犠牲や試行錯誤を経て正しい鑑別や調理法で安全な食材・料理を後世に伝えた先人の知恵のことであり、命がけでも旨いものを食うべきという浅知恵ではなかろう。

鮮度管理や衛生的な厨房はもちろん重要ではあり、サバやカキなどによる食中毒はかなり防止できるので生食(あるいは非加熱食)は規制されてはいない。しかし、残念ながら生レバーは新鮮な材料の内部が汚染されているのであるから鮮度や衛生管理では対処できない。フグのように免許制にすればなどという意見も記事にあるし、他にも同様のブログhttp://blogos.com/article/115178/もある。種類ごとに有毒部位がはっきりしているフグであればこそ、講習を受ければ安全な調理ができるが、生レバーを加熱せずにウイルスや寄生虫を完全に無害化して生のまま提供することは不可能なので講習のしようがない。(ひょっとするとガンマ線を大量に照射すれば可能かもしれないが、きっと「放射線を浴びたレバーなど怖くて食えない」という誤解を持つ人が多数派であろう。ガンマ線を浴びてもレバーが放射能を持つことはないのだが・・)
もちろん無害なレバーも存在するので徹底的に切り刻んで検査してウイルスや寄生虫が存在しないことを確認はできるが、時間も費用もかかった切り刻まれた生レバーなど誰も食べないであろう。

今後も次々と規制外の生肉・内臓を「規制されていない」「客が希望する」ことを大義名分に提供する店が出てくることであろう。まるで脱法ドラッグのようなイタチごっこである。 世界中のあらゆる動植物の急性・慢性毒性・感染症リスクが調査され規制されているわけではないのだから、顧客に食品を提供する側は十分に安全性の確認された食材を正しく衛生的に処理してから提供するのが当然であり、それが食品衛生法の趣旨であろう。 また消費者としても安易な好奇心や経済性(安くてウマそう)から食通を気取って受け入れたりせず、危険なものは例えみんなが喜んで食べようとしても、危険性を主張し周囲の人に注意喚起すべきであろう。

でも、やっぱり規制前日には駆け込みで食べる人が多発するであろう。せめてそれをまた面白おかしくニュースで取り上げるのはやめて欲しいとマスコミにお願いしたい。