ニューヨークの国連本部で1カ月近くにわたって開かれた核拡散防止条約(NPT)の再検討会議が、合意内容をまとめた最終文書を採択できずに閉幕した。
日本は世界の指導者らに広島、長崎への訪問を促す提案をしたが、核保有国である中国が「日本は自らを加害者ではなく、被害者として描こうとしている」などと主張し、この提案は盛り込まれなかった。
それ以上に大きいのは、会議の決裂で世界の核軍縮、核不拡散への機運が後退したことだ。核開発を続ける北朝鮮への歯止めはきかず、事実上の核保有国でNPTに加盟していないインドやパキスタン、イスラエルが条約に加わる可能性も一段と遠のいた。NPT体制は一段と弱まりつつある。
だが、これは十分に予想されたことだ。
核兵器は世界に拡散し、中東の過激派などテロリスト集団にまで及びそうなキナ臭い状況になっているが、核保有国は既得権を手離そうとしない。
日本はどうすべきか。「このままでは、日本もNPTを脱退し、核保有の道に進まざるをえない」と明言すべきだろう。次のように訴えることが肝心だ。
核保有国の指導者が広島、長崎を訪問し、核兵器の恐怖を再確認することが核廃絶への着実な一歩になる。その提案を核保有国のなかで唯一、核軍備を増強している中国が反対するようでは、隣国にある日本として脅威を感じざるをえない。日本は戦後一貫して、平和国家の道を歩み、核兵器を保有しないのはもとより通常兵器の保有も最低限に抑えてきたが、日本は唯一の被爆国である。核の恐怖に対して最も敏感である。その恐怖を抑えるには日本も核保有せざるをえないという声が日本国内に広がった場合、日本政府としてその声を抑えるのは困難だ
「日本は第2次大戦の加害者だ」というイメージを温存、拡散しようとする中国の情報戦略に対し、「今、アジアで軍拡の恐怖を与えているのは中国なのだ」という情報戦略を展開することが肝心なのだ。
同時に、日本はイザとなれば、いつでも核武装するという姿勢を中国、そして米国にも発信し続けることが必要である。日本は米国の「核の傘」の下で護られている。だが、米国が日本の核防衛を真剣に考えないのなら、いつでも核武装するぞという姿勢を保つことも忘れてはならない。
いや、もっと重要なのは、米国に対し日本の核保有を認めるように、つねに働きかけることだろう。核兵器の発射ボタンを日米で共有できる核シェアでも良い。それが日本の相対的独立を促す。そして、そうなった日本が米国にとって最も強力な同盟国になる。ということを米国に説得しつづけることが求められる。
まずは「今のままなら、核保有せざるをえない」と宣言し、日本の外交力を高めることが肝心だ。
編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年5月31日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。