国は「相続税対策」の対策を

日経新聞で新しい特集、「税金考」が始まり、「相続税バブルを追う」という対談も組み込まれています。相続税バブルとはうまい名をつけたもので私もその通りだと思っています。日本が今やらなくてはいけないことは何なのか、もう一度考える良い機会かもしれません。


書店に行けば相続税対策のムック本が並びます。なぜ、いま相続税対策なのか、といえば昨年から始まった相続税強化で今まで以上に多くの人に相続税を現実のものととして感じさせる問題となったからでありましょう。また、昔は兄弟が多く、一人当たりの相続額は知れているものでした。しかし、今や少子化で相続する子が一人かせいぜい二人という家庭が圧倒的に増えています。

多くの家庭で親のどちらかが亡くなった際、相続を心配する方が多いものです。ところが、いわゆる一次相続では配偶者控除が実は1億6000万円と非常に高く案外、相続税を乗り越えられる人は多いものです。ところがその親もいい歳な訳ですから二次相続は割と間近に迫っています。そしてもう一人の親が亡くなった時の相続は配偶者控除がない分、非常に響くことになります。

また、以前から繰り返して言っていますが、相続の対象になるのは不動産だけではなく、株式や生命保険、現預金など様々なものに及びます。今、相続が現実問題となられている多くの方が活躍されたのはバブル経済の前ですから生保や株式などサラリーマンが投資、貯蓄など財テクを積極的に行っていた時期に重なります。つまり、思わぬへそくりやタンス預金が衝撃となる場合すらあるのです。

その為多くの相続を現実問題として抱えている人たちはいかにして相続から逃れるか、あるいは相続税を減らすかその知恵を絞っており、その結果、一般的に考えられているのが高層マンション購入なのであります。何故高層マンションかといえば土地の持ち分割合が少なくなるため節税効果が一番高いのであります。よって少子化の日本で年間80万戸以上の住宅が建ち続け、都市部で高層マンションが林立する理由はそのような架空の需要が支えていると言っても過言ではないでしょう。

私がカナダで住宅事業を始めた1992年ごろ、当地では「電気のつかないマンション(コンドミニアム)」が話題となっていました。当時、多くの香港の人たちが投資と移民権目的でマンションを買い漁り、人に貸すことなく空き家で持ち続けていたためにそのように揶揄されたのです。カナダはその後も国策として移民を受け入れ続けており、その比率は年間当たり、全人口比の0.5-0.6%にも及んでいます。日本で言えばざっくり年間60-70万人に相当する人数となります。そのためにそれらの電気がつかないマンションも自然解消され、いまだマンション建設ラッシュが続いています。

ところが日本の場合、移民への門戸は開いていますが移民を希望する人がもともと少なく、移民受け入れ議論以前の状態であります。その中、空き家住宅が800万戸を軽く超え、年間80万戸の住宅がどんどん立ち続けるこのアンバランスさを放置してもよいのでしょうか?私の想像する10年後の日本は都市に林立する電気のつかない高層マンション群であります。私は上海でゴーストタウンのような高層住宅エリアを見ましたが、日本でもそれが現実のものとなるのでしょうか?

私は国税が税のリバランスを取らないと日本経済に悪影響を与えると考えています。このリバランスとはまず、住宅所有に伴う相続税の特例や優遇措置を厳しくします。その反面、現金控除を増やすなどして高齢者が残すであろう資産のバトンタッチをより実態に即したものとし、残された家族がもっとその恩恵を享受できるようにすべきであります。孫の教育費の非課税枠強化というのがありましたが、あのような発想をもっと増やすと良いでしょう。と同時にいわゆる相続税の控除枠は本来であればもっと広くすべきだったと思います。国は逆の政策を選んだ気がします。

もともとの発想は戦後、日本の住宅は不足しており賃貸比率を下げ、持ち家政策を取ったことが住宅所有に対する優遇措置の根本思想であります。が、いまや余っている住宅問題が顕在化しているにもかかわらず、国の相続税政策はもっと住宅を買わせることに繋がっています。これは政策として機能していません。

日本は既に物質的には十分成熟した国であります。今、この国が必要としているのは質の向上であります。それがひいては少子化対策にもつながるであろうし、高齢化問題への助けにもなるでしょう。しかし、国策は結果として新しい住宅を作らせるものであります。明らかにおかしいでしょう。

安倍政権は順風満帆な様子ですが、この相続税政策は禍根を残す気がします。めったにない相続税大改革でしたがハコモノ政策の延長だったと指摘されても反論できないでしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 6月3日付より