FIFAの行方

ブラッター会長が5月29日の選挙で5選を果たしてわずか4日後の6月2日に辞任表明をしたことはFIFA(国際サッカー連盟)の透明性に大きな疑問を投げかけました。日本でも小さい子供は野球よりサッカーを選ぶ時代になり、サッカー競技人口は地球儀ベースでは2億7000万人(FIFA発表)と圧倒的であります。当然ながらそこに絡むお金の問題も起こりやすい状況にあったと思いますが、今回の問題は先行きが相当懸念されそうな気がします。


まず5月29日の選挙は27日にFIFA幹部14名が起訴された事態の中で行われた次期会長選でした。もしもこの選挙が公明正大なものであれば209票の行方はそれまでの趨勢のブラッター会長支持が揺らいでもおかしくありませんでした。事実、イギリス首相を含め、内外からその責任を問う声が上がっている中で結局対抗馬のヨルダン アリ王子に133対73と大差をつけて勝利しました。それを強力にサポートしたのは多くのアフリカ諸国と言われていますが、理由はブラジルでもアフリカの無名の小国でも一票は一票である仕組みがあるからでしょう。まさに一票の格差であります。

事実、当選したその日のブラッター会長は喜びに浸っていたと報道されており、一方で反対票を投じた人に対して「I forgive but I do not forget.」という言葉を残しています。これは73票の流れた票についての怨嗟そのものでありますが、通常の選挙の結果ならばこのような言葉が出てくることはありません。個人的にはブラッター会長が側近の事務局長を通じて票を買収していたのに一部の票がそれに反してアリ氏に流れたという恨み節と見ています。

そのブラッター会長が事情聴収の対象になったことで一気に形勢が逆転、極めて早い幕引きとなりました。これも私の勘ですが今回のアメリカを中心とする捜査当局は選挙を予定通り実行させその証拠固めをする戦略だった気がします。事実、ブラッター会長を支持していたナイジェリア、ケニア、イラン、ギリシャなどは今、青くなっていると言われています。理由は会長選に伴う収賄でありましょうか。これではブラッター票を買い取るための資金がそれぞれの国に流れていたと類推したくなってしまいます。

ではもう一つの捜査、W杯や関連イベントなどの招致に関しての賄賂のルートであります。その疑惑は10年の南アフリカ、18年のロシア、22年のカタールが対象になっていますが、2014年のブラジルの名前がなぜないのかこれも不思議といえば不思議です。14人の起訴されたメンバーにはブラジル人も入っており、ブラジルの司法当局も捜査に乗り出していますから本件は泥沼と化す公算が高いのではないでしょうか?

うち、最大の疑惑は22年のカタールで開催決定当時から不正疑惑が渦巻いていました。また、ロシアについてはプーチン大統領が「アメリカの常套手段で、自国の裁判権を他国に使っている」と息巻いていますが、ロシアもブラッター支持派でしたので何が飛び出すか、気になります。アメリカがロシア苛めをするならこれもチャンスかもしれません。

FIFAを中心とした贈収賄はアングラマネーがアングラマネーを作る最悪のシナリオに見えます。その上層部は腐りきっているともいえるでしょう。ブラッター会長の娘が「父はまじめでそんなことする人ではない」と声明を出していましたが、今となっては娘のボイスもむなしく聞こえてしまいます。

直接的に懸念があるのはブラッター会長がばら撒いたかもしれない票の買収資金がどの国のどのレベルまで渡っていたか、であります。当局がどこまで捜査する気なのか、あるいは影響力が大きすぎて問題をスルーさせるのかそのあたりも今後の注目ポイントとなりそうです。

いずれにせよ、多くのスポーツファンを失望させ、多くの世界の子供たちの夢であるサッカー選手がそのような組織体に影響を受けていたことは許されないでしょう。折しも当地ではFIFAの女子サッカーが間もなく始まるところでありますが、正直、あまり盛り上がっている感じはありません。女子サッカーとしては前回のドイツの80万枚を超える史上最高の150万枚のチケット販売を目標にしていますが、スタジアムベースでは75%程度の売れ行きで今や学生向け500円(5カナダドル)の安売りも一部で始めています。

疑惑を払しょくして明日に向かってボールを蹴ってもらいたいものです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 6月5日付より