国際通貨基金(IMF)は、米連邦公開市場委員会(FOMC)に年内の利上げ見送りを求めました。2016年1-3月期まで待つべきだと主張しています。
ラガルドIMF専務理事が年次審査報告での記者会見にて「経済にとって2016年初めの利上げこそ賢明」と発言したように、報告書では「賃金、インフレにおいて確実な兆候が現れるまで利上げを待つべき」との見解を示しました。時期尚早な利上げは「金融市場を引き締め、市場の安定を脅かしかねず、経済を失速させかねない」とも警鐘を鳴らします。IMFの試算ではインフレ目標値2%への回帰が「2017年半ば」となる見通しで、利上げ開始に急いだ場合「Fedはゼロ近辺政策への逆戻りを余儀なくされるだろう」と強調していました。利上げを遅らせれば「利上げペースを加速」させ、インフレ目標値2%超えも「ありうる」と予想。それでも「低インフレ、政策巻き戻しといったリスクを回避できるため有効と説きます。
一連の見解とともに、米経済見通し改定を通じ米国の2015年成長率見通しを2.5%へ下方修正しました。1-3月期のマイナス成長もあり、世界経済見通し最新版を発表した4月時点から大きく引き下げています。
イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長率いるFedは、3月FOMC時点での経済・金利見通しを紐解く限り年内利上げを想定している公算が大きい。特にイエレンFRB議長とフィッシャーFRB副議長の最近の発言を振り返ると、9月に照準に当てている様子。IMFは、着々と利上げの地ならしを進めるFedにけん制を送ったかたちです。
イエレンFRB議長は足元、IMFでの会合やカンファレンスで金融市場に対し重要なメッセージを送り続けてきました。他ならぬラガルドIMF専務理事とパネルディスカッションに参加した5月6日、「米株は割高」と発言。当時、長期金利の急伸にも言及していたのも記憶に新しい。2014年7月は、議会証言でソーシャルメディアなど一部セクターへのバリュエーションに警告を放つ以前に株式市場を除くスプレッド縮小をはじめとした懸念材料を並べていたものです。IMFは一連のイエレン発言を経て、2014年10月公表分の世界経済見通しでは株式市場における「泡の表面化」を指摘し調整を促していました。両者は金融市場の安定を目指し、足並みをそろえてきたものです。
世界の金融市場を支える女性2人、今は米国の利上げについて何を思う。
(出所:IMF)
しかしIMFは今回、イエレンFRB議長が市場に送るメッセージに反し米利上げに明確な注文をつけてきました。ドル高を念頭に入れた4月公表の世界金融安定報告書より、一段と警戒度を引き上げています。欧州債を中心にボラティリティが高まり、9月利上げ観測が高まってマーケットの安定が脅かされているだけに、IMFも静観できなかったとみられます。太平洋を挟んだ世界経済のエンジン、中国で債務問題が深刻さを帯びているなかでは特に無視できなかったのでしょう。
奇しくもFRB内でもブレイナード理事が2日に景気低迷が一時的ないリスクに言及し、「利上げ開始に慎重であるべき」との見解を明らかにしていました。銀行規制担当のタルーロ理事も4日、「米経済は2014年当時のような回復は見られていない」と発言。2016年まで利上げを待つべきとするシカゴ連銀のエバンス総裁(今年の投票メンバー)やボストン連銀のローゼングレン総裁などのハト派寄りへにじり寄ってきました。16~17日開催のFOMCで声明文をはじめ経済・金利見通しにこうした慎重な見解がどこまで反映されるのか、9月利上げの可能性を維持してくるのか。マーケットは経済指標とにらめっこしつつ、乱高下してくる可能性が潜みます。
(カバー写真:IMF)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年6月4日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。