韓国は本当は「後進国」か --- 長谷川 良

韓国日刊紙「中央日報」日本語電子版を読んでいたら、「またぶり返す後進国トラウマ」というタイトルのコラム記事(10日付)があった。記者は中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス対策の遅れを指摘し、「通常、後進国の特長には不透明性、閉鎖主義、権威主義と低い市民意識などが挙げられる。これに対し先進国の特長は開放性、自律性、協力などだ。ところがMERS処理過程で見せた韓国社会のシステムは後進国のそれだった。どの病院で発生したかもわからず、患者がその病院を出入りし続けて感染者が広がり、保健当局は無能さの極致に加え閉鎖主義で問題を拡大した」と嘆く。韓国保健福祉省が10日、MERSの感染者が13人増え、計108人に達し、死者も2人増えて計9人になったと発表したばかりだ。


激しい熱情をもち、何事にも積極的な国民性の韓国だが、いったん危機に直面すると、その熱意は政府や関係省庁批判に向けられるだけで、肝心の問題解決には注がれなくなる。昨年4月16日、仁川から済州島に向かっていた旅客船「セウォル号」の沈没で約300人が犠牲となるという大事故が起きた時も、救援活動よりも船舶会社批判、ひいては政府批判でもちきりとなった。そして遺族関係者は、事故現場に追悼に訪れた朴槿恵大統領すら追い払うほど、その批判や怒りは攻撃的、爆発的だった。

同じように、MERSで感染を防ぐことが出来なかった病院や行政機関、ひいては大統領府まで批判の矢は飛んできた。朴大統領は10日、14~19日に予定していた訪米を延期することに決め、国内に留まり、MERS対策に全力を注ぐと発表した。大統領がこの時期、米国に飛び、オバマ大統領と会談したとしても得るものは少なく、国民の批判は一層高まると予想されたための緊急決断だった。

ちなみに、間近に迫った訪米計画を延期することは通常、考えられない。オバマ米大統領との会談日程は簡単には実現できないからだ。ひょっとしたら、年内の訪米は難しくなるかもしれない。にもかかわらず、朴大統領は国内に留まり、対策に乗り出すと決意したわけだ。それだけ、大統領への国民感情は厳しいというわけだろう。

中央日報コラム記者は、「わが国は経済的には立派な先進国だ」と指摘し、様々な経済統計を挙げながら強調している。「韓国は後進国なのか。違う。あらゆる指標をすべて突きつけても先進国に分類される。経済的基準では世界10大先進国に属する。国連開発計画(UNDP)が実質国民所得、教育水準、識字率などの指標を統合して調査発表する人間開発指数で見ても世界15位圏。経済協力開発機構(OECD)の高所得加盟国、国際通貨基金(IMF)が分類した先進経済国など国際機関の分類でも上位圏だ」という。

にもかかわらず、韓国国民は、「自国が後進国ではないか」というトラウマを抱えているというのだ。記者の言葉を借りるならば、「自信がない」のだ。 今回のMERSの対応はその不安を再び浮上させてきたわけだ。「中国ですら2次感染が出ていないのに、わが国は3次感染、2次流行の波だ」というのだ。

慰安婦問題では強気で反日批判を繰り返してきた韓国メディア関係者ですら、状況が一変すれば、「わが国は後進国ではないか」と自信なさを暴露してしまうわけだ。

ハッキリとしている点は、先進国のメディアは「自国が先進国か、後進国か」といった意味のない問いかけはしないし、国民がそのような問題でトラウマとなって悩むことは絶対にないということだ。

韓国は世界第一の整形手術国だ。外観を最重視する国民性は裏返しに言えば、自分に自信がないからだ。だから常に外観を飾り、ナンバーワンを目指し、先進国の日本と全ての分野で競争する。性犯罪発生率では世界トップを走る国が、慰安婦問題となると「道徳の優位性」を主張し、日本を牽制する。しかし、今回のMERS感染問題のように想定外のことが生じると、国民は急に自信を失い、心は一層揺れ動きだすというわけだ。

記者は「唯一の対案は市民社会の道徳性と責任意識を生き返らせることなのかも知れない」と述べ、コラムを閉じている。その結論は正しいだろう。 孔子の言葉で「躬自厚而薄責於人」がある。問題が生じた時、先ず、自ら内省し、人には寛大に接することが重要だという意味だ。

韓国国民は戦後、全てのことにパリパリ(早く、早く)といって考えずに走ってきた。そして一応、経済的には先進国入りした。韓国が新たな発展を実現するためには、政府も国民も内省の時を持つべきだろう。禍を転じて福となす、という諺がある。MERS問題も朴大統領と国民が結束して対応していくならば、必ずよき結果が生まれてくるはずだ。日本政府も支援を惜しまないでほしい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年6月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。