以前、朝日新聞の吉田調書誤報騒動の際、「先進国で最もマスコミを鵜呑みにする日本人」という記事を書いた。そのときに参照したのが、「世界価値観調査(2010)」だが、日本人の新聞に対する信頼度は「非常に信頼する」と「やや信頼する」を合わせると70.6%にのぼり世界トップレベルで、米国20%台、英国10%台をはじめ先進国が10%から40%台なのに対して圧倒的に高いことを指摘した。
この世界価値観調査で、宗教の重要性に関する質問項目もある。これに対して、日本では「とても重要」が5.7%、「どちらかと言うと重要」が11.6%、「あまり重要ではない」が31.7%、「まったく重要ではない」が39.7%、無回答が11.3%という結果だった。それぞれあわせると、宗教が重要と考えている人は17.3%、重要と考えていない人は71.4%で、無回答を含めると実に8割以上が重要ではないと考えていることになる。この結果は日本で普段生活している肌感覚に近く、一見、「現代人としての常識」と思えるかもしれない。
しかし、他の国々の調査結果を見ると様相は全く異なる。米国では、「とても重要」が47.0%、「どちらかと言うと重要」が24.1%、「あまり重要ではない」が19.5%、「まったく重要ではない」が8.7%、無回答が0.7%だ。それぞれ合わせると、重要と考えているのは71.1%、考えていないのは28.2%と、日本と真逆の結果になる。東南アジアやアフリカ、中東諸国では、宗教を重要と考える人は90%を超える。ヨーロッパ諸国では、米国ほどではないが、宗教を重要と考える人は3-5割ほどで、日本のように2割を切ることはほとんどない。唯一、日本と同じような結果になっているのは、中国の16.2%くらいだ。日本は価値観から言えば、「共産主義国」のようなものなのかもしれない。あえて言えば、「マスコミ教国」、「人様に迷惑をかけない教国」だ。
世界価値観調査をみれば、どちからという、何らかの意味で宗教を重要と考えており、重要と考えていない立場でも、両者の立場が並存していることを知っているというのが「現代世界の常識」といえよう。世界中を回り、仕事をしていても、そのように肌感覚で感じる。
そうなると、グローバル化のなかで国家としても個人としても生き抜いていくためには、世界の常識、世界の人々の考え方を、知り、理解し、共存していく必要がある。にもかかわらず、日本人の特にエリートと称される政治家、官僚、学者、ビジネスマンには宗教的教養が決定的に不足しているように思える。そんななか、同志社大学神学部を卒業し外務省に勤務した作家・評論家の佐藤優氏は、外交・インテリジェンスのみならず宗教的教養も深く、いつもその著作を興味深く読ませてもらっている。先日は、ニューヨークからの帰りの機内で、『サバイバル宗教論』を読んだが、キリスト教、イスラム教、仏教のみならず、中東、イラン、北朝鮮、沖縄と縦横無尽に分析・論評され、大変面白かった。
これから、イスラム教人口が2050年には世界で3人に1人の割合になり、さらにアフリカ人口も急激に伸びていくなかで、21世紀は「宗教の時代」となるかもしれない。そんななか、日本が生き残っていくためには、サバイバル宗教論も真剣に考えていかなければならない議題の一つなのかもしれない。
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学びのエバンジェリスト
本山勝寛
http://d.hatena.ne.jp/theternal/
「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『16倍速英語勉強法』(朝日新聞出版)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。