不動産投資は不動産の所有ではない

株式や債券への投資は、紙を買っているのではない。株式や債券というのは、総称して証券(だから紙)というのだが、投資対象としての証券というのは、財産権を表章するもののことであって、投資価値は、その基礎にある財産権そのものにある。


証券という形態をとるのは、譲渡(権利の移転)の簡便性を高めるための技術的な問題にすぎない。というよりも、財産権としての側面からいうならば、証券の意味は、第三者に対する権利の対抗要件にあるのだ。法律上、財産権を第三者に対抗できなければ、投資対象として成立しない。例えば無記名証券であれば、占有によって権利を主張できる。逆に、その容易さが譲渡可能性を規定しているのである。

不動産も同じである。不動産の所有は、不動産にかかわる権利を主張するために必要なのである。不動産にかかわる権利の登記という制度は、まさしく、そのためのものである。そもそもが、賃貸に出すという不動産の利用自体も、所有権を前提にしたことだ。

不動産を投資対象にするということは、不動産を収益物件化すること、即ち賃貸の仕組みを作り出すことであり、その仕組みからあがる賃料を受け取る権利を保全することだが、その全過程において、不動産の所有が前提になっている。

だから、不動産投資は、方法的前提として、不動産所有になる。所有しなくても、同等の経済効果と同等の権利の法律上の保全を実現できるならば、所有は必ずしも必要ではない。しかし、不動産利用の方法における自由度の確保が、その利用から生じる賃料収入の量と質にとって決定的に重要な要素ならば、所有の重要性は高い。

不動産利用の方法を工夫することは、不動産投資の専門家の仕事であって、投資家の仕事は、あくまでの財産権から生じる収益の稼得にある。だとすると、投資という目的では、所有は必要でないかもしれない。

ここに、不動産の管理経営と不動産にかかわる財産権を切り離す工夫の余地がある。これを、普通は、不動産の金融商品化という。しかし、商品という言葉は、用語としては不適切である。法律上の意味は、将来の収益を受取りと、対価として支払われる元本との関係を規定する約定、即ち財産権に関する契約関係に他ならない。

契約関係が投資対象であり、金融商品なのである。商品という言葉から連想されるようなモノがあるのではない。そして、商品と呼ばれるような契約の類型は、財産権を第三者に対抗するための要件を充足してれば、それでいいのである。

いずれにしても、不動産の所有、不動産の経営管理、不動産からあがる収益の分配に与ること、これらの三つは、相互に関連するとはいえ、それぞれを独立したものとして扱えることが重要なのである。

不動産投資にとっては、何よりも重要なのが、不動産からあがる収益の分配に与ることである。ここに尽きる。不動産の経営管理は専門家に委託すればいい。ここに不動産投資の資産運用業が成立する根拠がある。所有についても、絶対的に不可欠な要件ではない。財産権としての権利の保全に必要な限りでのみ、所有が必要になるにすぎない。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本紀行