先週末、徒然にYouTubeをブラウズしていたらFIFA女子ワールドカップ、アメリカ代表チームのキャプテン、アビー・ワンバック選手の気合いが入りまくったビデオクリップにめぐりあいました。
アメリカ合衆国サッカー連盟が製作した、ワールドカップ代表選手23人の紹介ビデオのひとつですが、「私は選手の全員に2011年7月17日を忘れるなと言い聞かせている...」、「人の評価は敗北によって決まるのではない。敗北の後、どうしたかで決まるのだ」と、前大会の雪辱への執念に燃える熱い宣言。見ているこっちも「よっしゃぁ~、ジャパンも負けんぞ!」とおもわず拳を握ってしまうくらいキモチのいい気合いの入りようです。
今月6日からカナダで始まった今回のワールドカップはグループ戦を終え、日米両チームとも順調に決勝トーナメントへ駒を進めています。アメリカは日本時間明日(23日)の午前9時から、コロンビアが決勝トーナメント初戦の相手。日本は日本時間24日の午前11時から、オランダが対戦相手です。
前大会の準々決勝ブラジル戦で、延長戦終了直前に芸術的な同点ゴールを決めたワンバック選手のことは覚えていましたが、この際にと思って今回の各代表選手の紹介ビデオを一覧して思った事を以下に数点。
今大会、6月16日グループ戦最終戦のナイジェリアとの試合を終えた時点でアメリカ代表チーム23人のキャップ数(代表試合参加回数)の合計は2,422。大会前の3月11日時点での日本代表の合計は1,618ですので、アメリカは比較的経験豊富なチームと言えるとかもしれません。最年長のクリスティー・ランポン選手は39歳。アメリカが最後に女子ワールドカップで優勝した1999年大会でも代表入りしていた大ベテラン選手。その一方でキャップ数50以下の選手が7名おり、チームとしての若返り、世代交代への努力が見てとれます。
ちなみに日本代表の最年長は36歳の澤穂稀選手。キャップ数50以下の選手は10名となっています。しかし日本のキャップ数に関しては、対戦相手として大人気のアメリカに比べて日本代表は国際試合が比較的組みにくいことを考慮に入れたほうがいいかもしれません。
日本女子は去年のU-17女子ワールドカップでも優勝を収めたりと、選手の世代層の厚みをいい形で構築しつつあります。日本サッカー協会、いい仕事しています。今も昔も変わらぬ課題は、こうして育っていく若い才能の受け皿となるべき、国内リーグの発展をさらに推し進めていくこと。おしなべてイジワルな日本の週刊誌の中には女子プロ選手の「薄給」ぶりを指摘するむきもあり、そうした意見ももちろんそれなりに妥当ではありますが、アメリカの女子プロサッカー・リーグが参加クラブの資金難を理由に2012年のリーグ開催をシーズン・オープン直前に見送る羽目になり、結果として選手たちのアスリートとしてのキャリアがめちゃくちゃになってしまったという大チョンボを他山の石とすると、なでしこリーグを始めとする女子リーグが継続して開催されてきたことは評価できると思います。
アメリカ代表選手中、若手フォワードのクリステン・プレス選手はプロ2年目にしてリーグ消滅に遭い失業。なんとかしてプロサッカー選手としてのキャリアを続行するため単身スェーデンに渡り、スェーデンの女子リーグ、ダームアルスヴェンスカンに所属するコッパルベリ/ヨーテボリFCと契約。そのシーズンのリーグNo.2ゴールスコアラーになり、チームのカップ優勝に貢献するというオールマイティぶりを発揮したそうです。
もっともプレス選手のように情熱を燃やし続けることができた選手の陰には、リーグ消滅のためにプロキャリアを諦めるはめになった選手も数多くいるわけで、やはりリーグを継続するということの貴重さを改め認識させられます。1988年から続く前出のスェーデン・リーグや、1990年からスタートしたドイツの女子ブンデス・リーがなどに比べると、アメリカのように過度な商業主義によりクラブ運営の採算が合わなくなったら「はい、おしまい」では、せっかく芽が出はじめた女子サッカーの隆盛の花のつぼみを、その都度摘み取ることになってしまうことになります。2012年の危機に学んだアメリカ合衆国サッカー連盟は、女子リーグに所属する各クラブに対して代表クラス選手の給料を支給するかたちで資金援助することにより、2013年から新リーグ、ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグを開催しています。アメリカ代表選手の全員(ただしワンバック選手は現在クラブ無所属)がこのアメリカ国内リーグに所属しているのは、給料面のことや、国内で活躍してより効果的に代表選出へのアピールをしたいという当然の目的以上に、自国リーグの存続に少しでも貢献したいという各選手の気持ちの表れでしょう。
プレス選手は西海岸の名門スタンフォード大出身。他選手の経歴も見てみたところ、スタンフォード出身はプレス選手を含めて2名。西海岸ではスタンフォードと双璧をなすUC Berkeleyが1名。UCLAが2名。東海岸アイビー・リーグと肩を並べるといわれる「公立アイビー」大学の一角を占めるペンシルベニア州立大学が2名。同じく「公立アイビー」のバージニア大学2名。もっとも数多く代表選手を輩出しているのは東海岸南部の名門ノースカロライナ大学で6名となってます。代表クラスの選手のほとんどが、高校生のころから各大学のサッカープログラムにスカウトされ、奨学金を受けてそれぞれ有名大学に入学している様が見てとれます。
公開されている情報にあたってみたかぎりでは、23人中既婚者は7人、3人が母親で、ゲイとしてカミングアウトしている選手が2人います。
なでしこは既婚者1名のみ。これはカルチャーの違いなのでしょうか。それとも改善されるべき選手の生活・キャリア環境の問題があるのでしょうか。
最後になりますが、アメリカ代表選手の名前には明らかにドイツ系とわかる名字が多い印象があります。ワンバックもそうですが、サワーブラン(ドイツ語読みではザウアーブルン)、クリーガー、エンゲン、クリンゲンバーグなど。国勢調査などの統計によると、アメリカ人のうち、ドイツ系アメリカ人は約4,980万人を数え、つい最近ヒスパニック系に首位の座を明け渡すまではアメリカ国内で最大の民族グループをなしていました。アフリカ系アメリカ人が席巻するバスケットボールや、中南米からのプレーヤーが多く活躍する野球などに比べ、「サッカーマム」という言葉に代表されるように、その競技人口を郊外に住む中流家庭の子供達を中心に発展させているアメリカの女子サッカーは、アメリカの人種構成をよりストレートに代表チームに投影しているようです。
オマケ
「失業体験」を熱く語るプレス選手。