増田寛也氏が座長を務める「日本創成会議」は東京など都市圏から地方への移住の提言を行いました。それを受けて日経新聞が読者投票で賛否を問うアンケートを取ったところ52.2対47.8で賛成が反対をやや上回りました。増田氏の提言は介護、病院のキャパシティが東京圏は十分ではないため、地方でまだ余裕がある都市、街にそれを受け入れてもらおうという発想です。
正直申し上げて切り口が単純すぎる気がします。また、そのアプローチに賛成か反対かという二者択一のアンケート自体にも無理がある気がします。
多くの人はご存じないか、忘れているかもしれませんが、1986年に通産省(当時)がシルバーコロンビア計画をぶち上げました。ロケット打ち上げのようなこの奇妙な名称は実は「豊かな第二の人生を海外で過ごすための海外居住支援事業」というサブタイトルがついており、その「老人輸出先」としてスペイン、ポルトガルを具体的に考えていました。その発案は完全に計画倒れとなりましたが、私の記憶が正しければ官側の推進者の一人が、私が当時勤めていたゼネコンで開発したポルトガルのリゾート地に責任を取って居を構えたはずです。
シルバーコロンビア計画がなぜ頓挫したかといえば姥捨て山というボイスが上がったことが主因であります。それと「輸出される老人」からすれば歳を取ってから知らない海外に住まわせられるわけで好き好んでの場合は別としてストレスがたまり、寿命を短くするのが関の山であります。
カナダは移民受け入れ国家で年間20数万人以上の人口が増えておりますが、移民権の取りにくい人にご老人があります。例えば移民者が自分の両親をカナダに連れてきて、同居したいという希望があったとしても移民権はかなり遠いプロセスになります。理由は高齢者は医療費など金がかかるばかりで経済効果を生み出さないからであります。つまり、政策として移民プロセスを極端にスローにし、健康状態が悪い場合は非常に厳しい審査が待っています。(ちなみにカナダは医療費は無料です。)
日本で増える高齢者がどこに住むか、これは高齢者自身の判断と行政の判断、更に精神衛生など学術面などいくつかの組み合わせによるべきであって増田レポートはあくまでも病院や介護という施設や介護士の数からみた検討不十分なレポートのように思えます。
老人ホームに入ると寿命が短くなる傾向がある、と以前聞いたことがあります。統計的にそれを証明するのはなかなか難しいと思いますが、病院やホームに長くいると刺激が少なく、人生のゴールが見えてしまうことでメンタルな部分に影響があるのかもしれません。
元気な高齢者は活動的で社交的、あるいは老若男女と接点がある人が多い気がします。つまり、高齢者に必要なのは適度な刺激ではないでしょうか?ところが地方に移住するとまず困るのが友人作りです。ましてや地方となれば人口密度も低く、新たにコミュニティに参加するハードルは高いでしょう。逆に言えば地方に移住することを拒まない高齢者は元気で積極的で問題ないともいえます。
高齢になればなるほど人はコンサバになりやすくなります。地方に行けば子供や孫の顔を見る機会も減るかもしれません。そのあたりのことも考えた上でもっとしっかりしたレポートが欲しかったと思います。
最後はご自身の判断ですから地方に行きたくなる魅力がどれだけあるのか、そこをアピールできるかではないでしょうか?また、一年を通して良し悪しを判断すべきです。やったことのない雪かきはカラダに堪えるはずです。
一時期流行った海外のロングスティも移住ではなく、数週間から数か月住む発想ですがそのブームすら去った気がします。結局海外で困るのは病院と食事です。外国生活の経験者は受け入れられるでしょうが、ハワイに観光に行くぐらいのつもりでは厳しいものがあります。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 6月26日付より