もはや宿敵の朝日新聞と化した百田尚樹氏

大ベストセラー作家の百田尚樹氏が、自民党若手議員の勉強会で「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない」という発言をしたそうです。それに対し、百田氏に近い安倍総理なども含め、様々な所から批判が噴出しています。

では、どのような経緯で百田氏が各紙の報道を元に、この発言に至ったのか整理してみます。まず、百田氏が、その発言を行ったのは多くが安倍首相を支持する若手議員の勉強会「文化芸術懇話会」の会合です。この会の目的は、「心を打つ『政策芸術』を立案し、実行する知恵と力を習得すること」となっていて芸術家との交流を行うとの事。そして、9月に行われる総裁選で、安倍首相の無投票再選を後押しする狙いもあるという報道もありました。

安倍首相という右寄りの総理を後押ししたい若手の集まりですから、自ずと会合は右よりの人ばかりと言っていいでしょう。そこで、百田氏は反日・売国という言葉を多用し、日本のメディアは日本を貶めようという目的があるようだと持論を語りました。すると、その様な百田氏の言葉に対して、会合に参加した議員は賛同して会場はヒートアップ。

そして、百田氏は会合のマスコミには公開されていない部分で、『沖縄の2つの新聞はつぶさないといけない』とか、『あってはいけない事だが沖縄のどこかの島が中国に取られれば目を覚ますはずだ』と問題とされている発言を行ったようです。そして、それを聞いた議員の反応は概ね賛同していたようで、『マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい』、と意見した議員もいたようです。

この経過だけを俯瞰的に見ると、少し民間人ゲストの百田氏には気の毒な部分もあるような気がします。なぜなら、右寄りの議員の集まりに、右寄りで失言の多さに定評のある百田氏が招かれれば、これくらいのリップサービスはあって当然と簡単に予測できる事です。だから、今回の百田氏の発言に会場の議員は盛り上がっていたのですから、本当に叩かれるべきは民間人の百田氏というより議員たちであるような気もします。そのためか、安倍総理が百田氏の発言が事実であれば大変遺憾と述べたり、この件について前防衛大臣が謝罪したのも、百田氏を切って自民党批判をかわしたいという思いもあったのでしょう。

しかし、そんな百田氏に対して、同情の余地があるかと言えば、私はそんな気が一切しません。というのも、去年の一番売れた作家であるにも関わらず、百田氏はリップサービス道を極めすぎているように見え、ありとあらゆる所で事実かどうかも分からない発言を繰り返しています。

例えば、今回の会合でも、沖縄の普天間基地の問題を語った際に、「基地の地主さんは年収何千万円なんですよ、みんな」「ですからその基地の地主さんが、六本木ヒルズとかに住んでいる。大金持ちなんですよ」などと発言しました。しかし、実際の沖縄の軍用地主の収入がどうなっているのかというと、半数以上が100万円以下と言われています。そして、500万円以上の収入がある人は1割以下と言われています。この様な実態に目を向けると、百田氏の発言は自分の持論を広めるために嘘を語っていると言われても仕方ないと思われます。

さて、最近、私の朝日新聞が戦前から嘘を使ってでも話を持って部数を伸ばしてきたマーケティング方法の仕組みを解説した、「朝日新聞」もう一つの読み方という本がアンチ百田氏の方々との相性が良いようです。なぜなら、とても皮肉めいた事なのですが、百田氏って朝日新聞を激しく批判しているものの、実は両者はそっくりなんです。朝日新聞の慰安婦報道のきっかけとなった吉田清治氏の証言が嘘だった事に対する、百田氏の見解を引用します。

歴史学者らが調べたら吉田証言は嘘だと分かった。チェック機能がおろそかだったという問題ではない。朝日は日本人をおとしめ、日本はひどい国だと言いたい。この目的のためにどんな嘘もつく

では、百田氏の沖縄の軍用地主に関する発言を、百田氏とは全く逆の立場の人が感想を述べると・・・?

歴史学者らが調べたら百田発言は嘘だと分かった。チェック機能がおろそかだったという問題ではない。百田は日本政府を持ち上げ、日本は良い国だと言いたい。この目的のためにどんな嘘もつく

と、ほぼ固有名詞と置かれた立場を変えるだけで、つじつまの合う批判が出来上がってしまいます。百田氏は言葉の専門家であるので、自分の言動が、自分の宿敵の朝日新聞と同じだという事に気付いていないという事もないでしょう。だとすると、世間をバカだと思っているのでしょうか。そう考えると、世間に対する態度まで、ますます朝日に似ているような気が・・・。と、いう気もしなくもありません。

さて、慰安婦報道だって、影響力のある朝日新聞の報道でなければ大問題にならなかったのかもしれません。今回の百田氏の発言だって、同じような事を発言しているように見える自民党の若手議員は、百田氏ほどのバッシングは受けていません。百田氏も朝日新聞ともに、自分自身の影響力と過小評価していたのでしょう。なんだか、百田氏は宿敵の朝日新聞と共に、現在の花形のポジションからは消えていきそうな予感です。

※私の著書は「朝日新聞」もう一つの読み方 Facebookで「マスコミもう一つの読み方」というグループを運営しています。そこにコメントを頂いたら、確実に返信いたします。