外国人取締役の苦悩

岡本 裕明

日本企業が海外での売り上げを増やす中、従業員に外国人を積極的に採用する企業が増えています。株主も外国企業や外資の持ち株比率が上昇し、過半を超えているところも数多くあります。その中で最近気になるのが外国人役員であります。ほとんどの外国人役員は長年の勤務で下から上がってきたわけではなく、外から採用され、ある日突然取締役や執行役員として迎え入れられるわけですが、果たしてその力を十分に発揮できるのでしょうか?

トヨタのジュリー・ハンプ常務役員。麻薬取締法で逮捕されたわけですが、この事件は二つの顔を持っている気がします。一つはもともとの情報がアメリカからもたらされたということでアメリカが仕掛けた陰謀説。ただし、これは今日のお題ではないので別の機会に譲ります。もう一つはハンプ常務役員が気分が高揚する麻薬オキシコドンを必要とするほどストレスを溜めていたのか、であります。

トヨタの役員会議がどのような雰囲気かは知りませんが、ハンプ役員にしてみれば居心地が悪かった可能性があります。それは言いたいことを言いづらい、そこに同席する役員の顔から何を考えているか推測しずらい(本音が見えない)、あるいはご本人の日本語の理解能力や仮に翻訳、通訳されたとしても言葉の裏側に隠された微妙なニュアンスは分からないでしょう。これらがストレスとなった可能性はあります。

欧米式のビジネスはコミュニケーションが非常に密接で会議の時にはある程度言いたいことが分かっている中でさらに掘り下げることが多いのですが、日本ではどうなのでしょうか?「俺、聞いてないぞ、そんなこと!」ということはないでしょうか?

外国人主導となった武田薬品工業のサプライズは株主総会直前に退任を申し出たフランソワ・ ロジェ最高財務責任者。社長のクリストフ・ ウェバー氏が聞いたのは辞める2日前だといいます。欧米では(突然の退任は)当たり前と日経には書いてありますが、意外感があったことは確かです。ご本人は武田に比べて企業規模が7倍で知名度も圧倒的なスイスのネスレからのラブコールに吸い寄せられたようですが、果たしてそれだけだったのでしょうか?何か違う気がします。

ソフトバンクに鳴り物入りで入ったニケシュ・ アローラ氏。孫正義氏が惚れ込んでしまってグーグルのNo4だった人物を札束で引っこ抜いたところは日本人にはできない力技でありますが正直、孫社長は彼にあまり入れこまない方がよいと思っています。なぜならあそこまで求愛すると本人が好き勝手し放題になりかねません。

また、IT業界はとにかく人の足が速いことで有名です。転々とするその姿はヤドカリのようなもので最後、ある程度稼いだら自分で起業したりするものです。ソフトバンクという企業群がなぜ、あそこまで大きくなったか、それは孫正義のチカラと日本の企業力の総和だったはずです。そこには絶妙な求心力があるもので社員は孫正義氏に一定の敬意を持っています。が、アローラ氏の経営手腕がどれだけ優れていても人心を掴めなければ確実に失敗します。それがどうなるか分かるまでしばらく時間がかかりそうです。

欧米はトップが変わってもドライに対応できますが、日本企業の場合、この社長は前と違う、という比較論から始まりダメだと徹底的にダメになり、総和のチカラが分散してしまうことすらあります。

その例がマクドナルドのサラ・ カサノバ社長でしょう。同社の場合、社員やフランチャイジーだけでなく、顧客のハートも分散してしまっています。

日本企業の難しさは社員の勤続年齢が長く、会社の隅々まで知り尽くしたうえで全員が一過言もっています。トップ交代とはトップが自分の味方をどれだけ多く作るか一種のオセロゲームなのですが、外国人経営者だとそう簡単に黒が白にひっくりかえらないところに苦悩があるのではないでしょうか?

日本人の几帳面、細かさは欧米人には不得手な部分でもあります。うまくかみ合えばベストマッチ(カルロス・ゴーン)、かみ合わなければ最悪を招く(オリンパスのマイケル・ウッドフォード)というのが私の今まで見た感じであります。この解決方法はなかなか難しいものがありそうです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ外から見る日本、見られる日本人 6月27日付より