神の前に永遠の絆を誓って結婚した夫婦は生涯、尊敬しあい、助け合って生きる。その絆を断つことは許されない。このようにカトリック教会で結婚した信者たちは神父から聞かされてきた。
しかし、南米出身のローマ法王フランシスコは、「時には離婚は避けられないというより、道徳的に必要な場合がある」と語ったのだ。イギリスのヘンリー8世は離婚を認めないカトリック教義に反発して、独自の教会(英国国教会)を創設したが、同8世がフランシスコ法王の「離婚の勧め」を聞いたらビックリしただろう。
フランシスコ法王の爆弾発言、「離婚の勧め」を少し紹介しよう。バチカン放送独語電子版によると、フランシスコ法王は24日、一般謁見で、「家庭は自動的に幸福な世界ではない。傷つけあい、罵声が飛び交う場所でもある。多くの子供たちは親が互いに罵り合っているのを見て傷つく。夫婦間の葛藤の最大の被害者は子供たちだ」というのだ。
さらに、「家庭内で互いに傷つけあうことは残念ながらよく見られる病だ。後で後悔して互いに償いができる段階ならいいが、罵倒が限度を超え、敵意と非情となれば状況は悪くなる。夫婦間のいがみ合いの悪循環は最終的には男と女の繋がりを破壊してしまう。それだけではない。それを目撃する子供たちの魂も傷つくのだ。人々は魂が傷つくことがどのような意味かを理解していない。家庭内の両親の不和が子供たちの魂に取り返しがつかない傷を残すのだ」と繰り返し指摘する。
法王の発言はそこで留まらない。一歩、前に出る。「夫婦間の不和、葛藤がある段階を超えると離婚が避けられなくなる状況が出てくる。そうなれば、離婚が道徳的にも必要となるのだ」と強調し、離婚に理解を示したのだ。もちろん、「厳しい状況下にある夫婦は神への信仰と子供への愛を思い出して困難を乗り越えて再出発してほしい」と付け加えたが、法王はそれが容易ではないことを知っているのだ。
カトリック教会の信者たちはフランシスコ法王の「離婚の勧め」をどのように受け止めるだろうか。カトリック教会は男と女が一旦結婚すれば、永遠に連れ添いあうと考えてきたし、教会側もそのように教えてきた。歴代のローマ法王の中で離婚を勧めた法王はいなかった。フランシスコ法王は誤解を恐れず、現実の多くの絶望的な家庭を意識したうえで、「離婚が道徳的にも避けられない状況がある」と判断しているのだ。
ちなみに、離婚の場合、夫婦が共にカトリック教徒の場合、教条上は離婚は許されないが、一方がプロテスタント信者や無宗教者の場合は状況は少し変わる。また、教会側に「婚姻無効宣言」をしてもらい、再婚する信者もいる。
バチカン法王庁で今年10月4日から通常の世界司教会議(シノドス)が開催される。バチカンは昨年10月、特別シノドスを開き、「福音宣教からみた家庭司牧の挑戦」について協議したが、通常シノドスではその継続協議が行われる。フランシスコ法王の離婚容認発言はシノドスの主要議題の一つ、離婚・再婚者への聖体拝領問題に大きな影響を及ぼすのは必至だろう。カトリック教義ではこれまで離婚・再婚者への聖体拝領は許されていないのだ。
欧米社会では3組に1組、多いところでは2組に1組の夫婦が離婚する。カトリック教会が離婚・再婚者への聖体拝領を拒否し続けた場合、信者たちを教会に引き止める手段がなくなる。フランシスコ法王は離婚・再婚者への聖体拝領を認める方向で検討に入っているのかもしれない。法王の「離婚の勧め」が教会の教義と一致するかなどの神学議論は今後、活発化するのではないか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年6月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。