W杯ロシア大会は“節約モード”で --- 長谷川 良

国際サッカー連盟(FIFA)の第21回サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会は2018年6月14日から7月15日まで開催される予定だ。開催まであと3年あまりとなったが、モスクワからは大会準備が思わしくないというニュースが流れている。ウクライナ紛争に抗議した欧米諸国のボイコットのため、大会開催が出来なくなる、というのではない。ロシア側の懐事情が急速に悪化し、W杯大会予算が削減され続け、計画通りの規模で大会が開催出来なくなってきたというのだ。

FIFAと言えば、ブラッター会長ら幹部たちの汚職、賄賂、腐敗容疑で大揺れだが、開催地誘致で18年のロシア大会と22年のカタール大会の決定の背後には不正があったという噂が払拭できない。そのような黒い雲が漂う中でロシア大会の準備が進められているわけだが、ロシア政府はW杯大会予算をここにきて何度も縮小せざるを得なくなってきているのだ。

ソチ冬季五輪大会(2014年)でもそうだったが、プーチン大統領は世界の耳目が集まる国際スポーツ大会を国家の威信高揚の機会として巧みに利用してきた。W杯ロシア大会でも同じように豪華な施設と規模で世界を驚かそうと考えてきたが、想定外のウクライナ問題が生じ、欧米諸国の経済制裁を受ける一方、輸出総額の約7割を占める原油・天然ガスの国際価格が下落し、通貨ルーブルの急落でロシアの台所事情は急速に悪化。その煽りを受け、W杯予算が縮小を強いられてきたわけだ。

本大会は、カリーニングラード、カザン、モスクワ、ニジニ・ノブゴロド、サンクトぺテルブルク、サマーラ、サランスク、ソチ、ヴォルゴグラード、ロストフ・ナ・ドヌ、エカテリンブルクの11都市の12スタジアムで行われる。

独週刊誌シュピーゲル(6月27日号)によると、ロシアは今年に入りW杯大会予算を5憶ユーロ削減したばかりだ。具体的には、11スタジアムで計画していた4カ所のトレーニング施設を3カ所に縮小し、不必要なホテルの建設は撤回。ロストフの試合場では45台のエレベーターを25台に制限し、VIP室、レストラン、喫茶店も縮小するという。拡声器や照明機材は欧州の会社から購入予定だったが、価格が15%安い中国製に変更する、といった具合だ。ルーブルの下落でカリーニングラードなどで建設予定のスタジアム建設原材料が計画より50%と高騰したという情報も流れている。
W杯ロシア大会は目下、節約モードだ。誘致当初の国家の威信高揚といった掛け声は準備委員会の関係者からはもはや聞こえなくなってきた。大会を開催できれば満足すべきだろう、といった感じが強まってきている。

W杯準備委員会は昨年、各スタジアムの収容規模(席数)を予定より1万席減とする決定を下している。ロシア政府は昨年、W杯予算を6600万ユーロ減で現在100億ユーロという。ソチ冬季五輪大会では、準備委員会は資金を無制限に投資できたが、W杯大会の準備では「そのような贅沢はもはや出来なくなった」というのだ。

プーチン大統領はウクライナ問題では強硬姿勢を崩さず、欧米諸国の制裁に対し、対抗制裁を実施し、大国ロシアの面子を必死に保っているが、ウクライナ紛争が今後、エスカレートするようだと、18年W杯ロシア大会ボイコットの声が欧米で更に高まることが考えられる。
プーチン大統領はW杯をロシアに誘致することには成功したが、大会開催で多くの難問を抱える羽目となっている。サッカー・ファンの一人としては、ロシア大会が無事開催されることを願うだけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年7月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。