御承知のように「ユーロ圏19カ国は13日の首脳会議で、ギリシャが財政法案を議会で可決すれば、3年で820億ユーロ(約11兆円)超の支援実施に向けた手続きに入ることで合意」しました。
「これでギリシャのユーロ離脱はない」とユンケル欧州委員会委員長が言明したとの報道もありましたが、その直前に「ドイツがユーロ圏一時離脱も提案」とも報じられていたように、離脱「シナリオは当面、避けられる見通し」になったというだけのことだと思います。
ただ何れにしろ、先週金曜日のブログ『ギリシャ・中国という干天の慈雨』でも述べた通り、「世界の国内総生産(GDP)の1%、欧州の2%程度」というギリシャの経済規模から言ってみても、彼の国がユーロ圏から離脱しようがしまいが中長期的には余り大した問題ではないでしょう。
振り返ってみるに今に続く此の「ギリシャ危機」というのは09年、ギリシャのパパンドレウ新政権がユーロ通貨圏参入に必要な財政規律を守っていなかったにも拘らず、いんちきをして対外債務の過小表示をしていた前政権による財政赤字の隠蔽を明らかにしたことがその発端です。
そして「財政危機が深刻化し、10年に国債が暴落し(中略)、国際通貨基金やEUなどによる融資、債務削減、財政緊縮策の実施などがまとまり、12年以降、危機は小康状態になった」ものの「昨年以降、厳しい財政緊縮策に対してギリシャ国民の不満は高まり、財政緊縮策の放棄を主張する急進左派政党が政権を奪取した」がため危機再燃となったのです。
ギリシャという国は此の間、第1次支援(10年)として「総額1100億ユーロ(うちユーロ圏800億ユーロ、IMF300 億ユーロ)」を、第2次支援(12年)として「総額1730億ユーロ(うちユーロ圏1450億ユーロ、IMF280億ユーロ)」を受けたわけですが、その政府「債務残高は3月末時点で約3100億ユーロ超(中略)、むしろ増加基調をたどってき」ました。
チプラス首相いわく「過去の金融支援策は“失敗”だった」ということですが、これからのち先般の金融支援が最終合意に至って実施されるとなれば第3次支援に当たるもので、その有無は本日にもギリシャ議会で採決が始まるとされる各種法案を、明日までに通せるか否かに掛かっています。
但し、今月5日の国民投票でその6割が反対票を投じた「ギリシャの人々が緊縮策の継続や行政改革の加速など金融支援の前提になる案を果たして容認するのかどうか」は大前提として、「空港や港など500億ユーロに上る国有資産の売却は、チプラス氏自身が今年1月に政権を取ってから執行を止めた経緯がある」こと、あるいは『15日までの議会では改革案全体ではなく、各法案ごとに審議する必要がある。「総論賛成、各論反対」の議員らをまとめ上げ、すべての法案を通すのは簡単ではない』こと等々、今後も一筋縄では行かず紆余曲折を経る可能性は十分にありましょう。
またEU側で言ってみても、ドイツ・フランス等のEU主要国間でギリシャ再建手法を巡る意見対立が未だ以て解消していないこと、あるいは「強硬派のドイツ・フィンランド・東欧などはギリシャ支援のために自国の議会の承認を得る必要がある」こと等々、今後の行方次第ではギリシャ問題が再燃しギリシャのユーロ圏離脱という不確実性がまた高まってくるのかもしません。
そもそもが好い加減にユーロという枠組みが抱える根本的矛盾(、つまり統一為替レートを使い金融政策は一元化されていながら、メンバー各国間において経済成長率も潜在成長率も大きく異なり、財政状況についても夫々違っているにも拘わらず、財政主権はメンバー国に夫々あるという状況)を、抜本的に改めることを考えるべきだと思います。
ユーロが内包する此の根本的矛盾の解決なくして基本的には何も解決し得ないということを私はこれまでも当ブログで再三再四指摘し続けてきましたが、これまで実際はその場しのぎの施策に終始してきた結果、小康状態を得たかと思えばまた問題化し深刻化して行くといったことを何度も何度も繰り返してきたわけです。
詰まるところ此の問題というのは、ユーロというコンセプトを続けて行くのか否かという二者択一しかないわけで、如何にドイツが負担に思おうとも続けるということにメリットを見出し、これから後も続けて行くという選択をするのであれば、ユーロ内で財政の一体化に踏み切るといった根本的解決策を目指して行かねばなりません。
今後もより良きEUを目指した形での抜本的取り組みが為されずに、中途半端な小手先の施策によって何時までも一時凌ぎを繰り返して行くのでは何も解決し得ないわけで、通貨だけを統合したがため経済格差の自動調整メカニズムが全く以て働かない本質的矛盾を抱えた仕組みであることの一端が今回また露呈したというだけです。
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