また戦後70年談話について「侵略」や「謝罪」を入れるべきかどうか議論しているようだが、日本の戦争が侵略だったとすれば、英仏がオスマン帝国を解体して中東の大混乱を生み出した植民地分割戦争は何だったのか。アメリカのベトナムやイラクへの介入は「いい戦争」だったのか。
本書も指摘するように、戦争を「正義の戦争」と「侵略戦争」に分類し、戦勝国が敗戦国を破壊することが、その復讐戦争の原因になる…という歴史が繰り返されてきた。戦争に「正義」の概念をもちこむのをやめ、力の均衡で現状維持をはかるリアリズムが必要だ、と本書もキッシンジャーに従って説く。
第1次大戦後、国際連盟ができたあと、ウィルソン米大統領は「民族自決」の理念を提唱したが、欧米の植民地は自決の対象から除外された。満州事変を侵略と断定した国際連盟の調査団長リットン卿は、インドのベンガル総督として、満州よりはるかに大規模な植民地支配の責任者だった。
リットンの義弟バルフォア外相は第2次大戦後、パレスチナを分割してイスラエルを建国し、中東の混乱を拡大した。チャーチルとルーズベルトは「大西洋憲章」でナチス・ドイツを非難し、彼らに侵略された国家の主権回復を求めたが、「この宣言はイギリス植民地には適用しない」と明記した。
第3次中東戦争でイスラエルはエジプト領のシナイ半島を侵略したが、これに対する国連の非難決議にアメリカは拒否権を行使した。しかしイラクのクウェート侵略には、アメリカは「多国籍軍」で報復した。
このように世界史は侵略戦争と植民地支配の繰り返しであり、「侵略」は戦勝国が敗戦国にはるレッテルにすぎない。日本は今までも何度も謝罪しており、戦後70年もたってまた謝罪を繰り返す必要はない。むしろまだ一度もベトナム侵略を謝罪したことのないアメリカが謝罪すべきだ。