医師の転職市場の実態とは

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最近、テレビ、ラジオ、雑誌にいたるまで医師を見かけるようになりました。テレビではコメンテーターとして出演し本屋に行けば医師が書いた健康本が並んでいます。「医師の転職市場も活性化しています」と述べるのは、
PR会社の社長であり、日本国内の医師紹介会社の批評、研究を行っている「医師紹介会社研究所」の吉池理氏です。今回は、吉池氏にあまり知られていない、医師の転職市場の裏側についてお聞きしました。

●医師の転職市場の実態は?

—医師の転職状況について教えてください。

吉池 理(以下、吉池) 当社では医師専門転職サイトの実態を調査、評価する「医師紹介会社研究所」を運営していますが、転職市場が活性化していることは間違いありません。

メディアの影響により医師の社会的ポジションがさらにアップしたことも上げられますが、医師という職業は一生涯続けられる仕事であることに加えて、高給であることからより高い条件を求めて転職市場が活性化しているものと思われます。また、医師の数は増えていますが、大都市圏における求人は横ばいです。一方で地方の求人は増えています。地方の医科大学病院では医師不足に陥っているところも少なくありません。

現在、各大学の医学部には定員が設けられており医師の適正水準の維持につとめていますが、医師の適正水準の維持は医師や病院同士の過当競争を避ける狙いもあります。ところが守られた環境であるため、著名な医師は自らのポジションをより強固なものにするために、学校別の派閥や教授毎の派閥やグループが形成されやすい傾向にあります。派閥を外れてしまった医師のキャリア形成は難しく、常勤(=正社員)として働くことをあきらめ、非常勤(=アルバイト)としての勤務を余儀なくされるケースすら存在します。

我々ビジネスマンと同じく、医師にとっても「好条件の転職先」というのは、競争率の高い争奪戦です。ましてやこの場合、医師にとってのライバルは医師なので競争レベルも非常に高いと言えます。実は様々な状況が絡み合って転職市場が活性化しているともいえます。

—常勤と非常勤では処遇が変わるものなのでしょうか。

吉池 非常勤は、手当てや保障が常勤と比較すると劣りますが、勤務形態が比較的自由で、仕事内容も軽いものが多いと思います。勤務形態が自由ですから、常勤のように早朝に出勤したり、夜中や休暇中の呼び出しなどもありません。仕事内容が軽いわけですから、大きな責任を伴うこともなく自分のペースで仕事に取り組むことが可能です。ですが、男性は常勤でないと上のポストに就くことができませんから、常勤を外された場合のキャリアを早い段階から考えておく必要性があります。最近の傾向では、男性が常勤、女性が非常勤を嘱望するケースが多く、特に女性は、結婚、出産、子育てといったライフイベントに併せて形態を変える方が多いと思います。

●人材紹介会社にも優劣がある

—医師紹介会社の質をどのように考えますか?

吉池 転職活動は医師にとっても一生のキャリアを左右する一大イベントですが、医師紹介会社の選択に失敗をしてキャリアを駄目にする医師も珍しくありません。

例えば、福岡県のV社という紹介会社は、架空の好条件求人をサイト上に多数でっち上げ掲載することで転職希望の医師を集め、適当な理由をつけてはV社が手っ取り早く利益を稼げる医療機関に、半ば強引に契約を結ばせて暴利を稼いでいました。V社内では架空求人を掲載することを「ダミーアップ」、取り下げることを「ダミーダウン」と呼んでおり、各求人の上げ下げがシステムで意図的にできるようにされていたというから悪質です。この会社は2015年5月にニセ医者を派遣するという事件を起こして報道もされています。こういった質の悪い紹介会社に運悪く登録してしまう医師は、キャリアアップやクオリティ・オブ・ライフの充実など望むべくもありません。

一方、医師に親身になって寄り添い、給与や福利厚生といった就労条件を超えて、医師の家族の生活や余暇を含むライフスタイルまで見据えた転職先提案ができる優秀な紹介会社もあります。こういった紹介会社とのお付き合いは医師にとって一生モノといえるでしょう。転職希望の医師にとっては、如何に優秀な紹介会社と契約をするかが大切なポイントです。

従来に比べて、一般に対して医療が開かれたことは間違いありません。日本には200社以上の医師紹介会社があると言われていますが、私たち、医師紹介会社研究所うでは、そのうち上位100社の調査と実力評価を毎年行っています。各紹介会社が医師と病院の正しいマッチングを誠実に行っていただき、医療業界に寄与していただきたいと考えております。

—ありがとうございました。

●尾藤克之
ジャーナリスト/経営コンサルタント。代議士秘書、大手コンサルティング会社、IT系上場企業の役員等を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ新書)、『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など。
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