いまだからこそアイス・バケツ・チャレンジを

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先日、「結局24時間テレビに違和感を感じないこれだけの理由」を投稿したところ、様々なご意見をいただきました。障害者理解が深まり議論が活発化することは良いことなので、今回は異なる角度から取り上げてみます。

●障害学という学問について
障害学という学問があります。障害学ではインペアメント(個人の障害)とディスアビリティ(社会の障害)とを、その系譜や概念から区別しています。障害学が対象としているのは後者のディスアビリティ(社会の障害)になります。障害学の研究が盛んな地域としては、米国と英国があげられます。米国では「社会の偏見」や「健康な者を中心とした価値観」であるとされ、英国では「社会制度上の障害者差別や排除システム」などが該当します。

障害を「個人の属性」ではなく「社会の障害」としてとらえていることの意味とは、日本でも話題になる「障害」を「しょうがい」と表記することの議論にも似ています。障害の問題とは、「障害」を「しょうがい」と表記を変えれば解決するような問題ではなく、このようなことが議論になること自体が「社会的障害」であると考えることです。視点を個人ではなく社会に転換することが大切なのです。

障害学に関心があるのなら、石川准氏(静岡県立大学国際関係学部教授)の著書が参考になると思われます。はじめて全盲で東京大学に入学したことで有名ですが、社会学者としてアイデンティティ論・障害学・感情社会学を専門としています。他にも著名な研究者がいますので探してみてください。

●啓蒙のためにアイス・バケツ・チャレンジを!
昨年、世界的ブームになったアイス・バケツ・チャレンジがあります。アイス・バケツ・チャレンジは、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の研究を支援するため、バケツに入った氷水を頭からかぶるか、またはアメリカALS協会に寄付をする運動として世界的なブームになりました。この活動も、賛否を含めて議論になりました。「ネットの特性とチャリティ活動を結びつけた」ことを評価する一方で、「氷水をかぶることは社会貢献ごっこ」「自らの宣伝や売名のために参加している」という意見もありました。

世界的なブームをうけて、米国国務省は、在外の大使や外交官に対して、アイス・バケツ・チャレンジへの全面禁止を通達します。ALS 以外の疾病に対して国として支援を行っていることを挙げ、「どれほど価値のある目的であっても、特定の利益のために公職を利用してはならないという厳格な規則がある」との通達をしたものです(AP通信)。この米国国務省の通達は非常に的を得ていました。その後、事故が多発し本来的な目的を見失ったことから加速度的に廃れていきました。

障害者が、人として尊重され障害のない人と同じように、いきいきと生活するためには、周囲の人が障害を正しく理解することが大切です。厚生労働省障害保健福祉施策のHPのなかでは次のように記載されています。「障害のある人も普通に暮らし、地域の一員としてともに生きる社会作りを目指して、障害者福祉サービスをはじめとする障害保健福祉施策を推進します。また、障害者制度の改革にも取り組んでいます」。

正しい理解を推進し深めていくためには「施策の継続」が大切であることを示唆しているのです。これは冒頭紹介した、障害学でも同様にいわれています。大局的な観点から鑑みるなら、間違いなく「24時間テレビ」の意義は大きいのです。1978年からはじまり今年で38回目の開催になります。

さて、今年は、アイス・バケツ・チャレンジの話題をあまり聞きませんがこれは残念なことです。元々はチャリティで、やったのは芸能人や有名人だし、というのであれば、あまりにも残念です。疾病や福祉に対する意識啓蒙を深めるためにも、継続いただくことを期待したいと思います。

●尾藤克之
ジャーナリスト/経営コンサルタント。代議士秘書、大手コンサルティング会社、IT系上場企業の役員等を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ新書)、『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など。
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