ビジネススクールとベンチャーキャピタルの経営の一環として、たくさんの会議やイベントを主催している。投資家会議のような小ぶりでかなり親密なものから、数百人が出席する大型カンファレンスまで、内容は実に様々だ。
規模の大小に関わらず、イベント開催で最も重要なことは、驚きと喜びである。真の感動の瞬間を創り出さなければ、出席者はイベントに没頭できず、翌年また来ようという気にはならないだろう。
だから僕は、様々なレベルで人々を魅了するイベントを作ろうと努力している。参加者の知性はもちろん、あらゆる感覚を刺激しようと考えているのだ。
以下に、僕が考えるアプローチ「感動の創り方」を紹介しよう。
1. 最高のロケーションとは?:いつもと違う場所を
可能なら、カンファレンスやイベントは社外で開催するのがベストだ。なぜなら、日常の環境から人々を連れ出すことで、疲れ果てた旧来の思考パターンから抜け出すことができるから。
このアプローチは、極端な方がいい。G1サミットでは、沖縄八重山の3つの小さな離島でカンファレンスを開催したことがある。なんと、イベント会場間を移動するには、船に乗らなければならないのだ!
今年の10月には、このコンセプトをさらに追求し、瀬戸内海をめぐるクルーズ船内で、数日間におよぶカンファレンスを開催予定だ。閉会式は、宮島の美しき世界遺産、厳島神社で行う。これほどに、日常の職場環境から離れることはできないだろう。まさに感動である。
2. 第一印象が大事:外見を選んで
オスカー・ワイルドは、「外見で判断しないのは、浅はかな人だけである」と言ったことで有名だ。スピーカーが登壇するときには、視覚的なサプライズ要素を用意することで、聴衆の心をつかむことができる。
東アジアの安全保障 – 南シナ海で力を誇示している中国に関するホットな話題 – について議論するカンファレンスを開催したとき、スピーカーの1人に、米海軍の大将がいた。彼は、まばゆいばかりの白い制服、帽子、勲章を身にまとっていたため、話し始める前から、会場には期待感が高まっていた(もちろん、話の内容も素晴らしいものだった)。僕はときどき、自社のイベントに袴を着て参加することがある。これは、「今日は特別」というメッセージを込めた、視覚的表現なのだ。
3. イライラをなくせ:円滑な運営を
Facebookの創設者、マーク・ザッカーバーグは、いつも同じグレーのTシャツを着ていることで知られている。これは、彼の意図的な選択だ。つまり、つまり、何を着るかというザッカーバーグにとっては取るに足らない問題に、彼の豊富(ながら有限)な知力をムダに使いたくないのである。もっと大きなビジネスの問題のために、心の準備をしておきたいのだろう。
これと同じで、僕のカンファレンスの出席者には、会場や開始時間などを気にして、その知性や感情をムダにしてほしくない。そこで、それらの混乱をあらかじめ避けるため、詳細かつ見やすいプログラムを印刷し、会場案内のスタッフを注意深く配置し、イベント開始時間には劇場のように大きなベルを鳴らしている。そして何よりも、すべてを時間通りに進め、どのスピーカーも割り当てられた時間を超えて話すこと(これがカンファレンス最大のイライラの源である)がないように心がけている。
4. 知恵はカロリーを消費する:脳に栄養を
日本はグルメな国であると同時に、おもてなしを重視している。どんな社交イベントでも、おいしい食事は重要であり、これはカンファレンスも例外ではない。丸1日カンファレンスに出席するには、かなりの集中力を要する。そのため、スピーカーも出席者もたくさんのカロリーをとって、脳を動かし続けなければならない。
だったら、ケータリングを感動の機会にしてみてはどうだろう。先日、僕の経営するベンチャーキャピタルで投資家会議を開催したときは、築地から新鮮な寿司と、日本酒「獺祭」を取り寄せた。獺祭は、先だって日本の安倍首相がホワイトハウスを訪問した際、オバマ大統領が首相に振る舞った酒である。それほど高くはないが、入手は非常に難しい。このように、特別なものを提供することも、出席者に「驚きと喜び」を提供する1つの方法である。
5. 雰囲気を和らげる:軽い雰囲気がエネルギーを生む
会期が1日のカンファレンスは、1時間半のセッションを4、5回行うことが多い。1日中気持ちを集中させるのは困難だ。そこで、出席者のバーンアウトを避けるため、ランチタイムのエンターテイメントとして、楽しくて少し突飛なイベントを開催するようにしている。
ある時は落語家を呼び、日本の伝統芸能である落語を英語でしゃべってもらった。またある時は、ライセンス会社のサンリオから、ハーバード卒の若い幹部を呼び、ハローキティ関連商品の海外販売を広告費に1銭もかけずに急進させた方法について語ってもらった。
会期が複数日にわたるカンファレンスの最終日は、必ずパーティで締めくくる。ときには、コスプレパーティにすることもある。出席者はマンガやアニメのキャラクターに扮して登場するのだ。
6. 自分に正直に:ラフな格好で意見をはっきり
日本には独自のサラリーマン文化があり、カンファレンスのドレスコードはフォーマルなものが多い。どこを見てもダークなスーツ!時にはフォーマルな服装が必要であることも分かるが、ドレスコードをカジュアルにすることで、人と人の間の壁を壊し、オープンでフランクな議論が促進されるというのが僕の考えだ。それは、感動的な見識をもたらしてくれるだろう。
以上が、僕なりに試行錯誤して編み出した、感動を生み出す6つのテクニックだ。
これを読んだあなたは思うかもしれない。「で、これは私と何の関係が?私はカンファレンスを主催する仕事をしているわけではないから、関係ない」と。
だが実は、これら6つのテクニックは、あらゆるリーダーに関係することである。
リーダーの多くは、自社商品やサービスを紹介するため、セミナー、ウェビナー、プレゼンテーションを主催する必要がある。さらに、オピニオンリーダーに注目され、思想的リーダーと見なされ、業界で自社の知名度を高め、オンラインで注目されることも必要だろう。
これらの目標を達成するには、感動の瞬間を生み出すのがベストだ。
この記事では、僕なりの「感動の創り方」のアイデアを紹介した。ぜひ、あなたのテクニックも聞かせてほしい。結局のところ、感動の瞬間を創るビジネスをしている人は誰でも、新しいアイデアに対してオープンでなければならないのだから。
グロービス代表 堀 義人
(訳:堀込泰三)
※この記事は、2015年7月23日にLinkedInに寄稿した英文を和訳したものです。
編集部より:この記事は堀義人氏のブログ「起業家の冒言/風景」2015年8月4日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「起業家の冒言/風景」をご覧ください。