大事なのは投票率じゃない

両親が投票に行けば、子どもの投票率は71%になる

選挙権年齢が18歳に引き下げられた。これにより、2016年夏に行われる参議院議員選挙からは18歳以上の有権者が投票することになる。
こうした状況を受け、マスコミは一斉に「主権者教育」などと言い始めている。その背景にあるのは、若者の低投票率である。

図表1: 親の投票行動や同居と子どもの投票率の関係
150806コラム グラフ親子投票率

(出所)「ブリュッセルの政治動向分析」掲載データより筆者作成

同居する両親が投票に行くと、子どもの投票率が71%になるというデータがある。グラフを見ると、両親の投票行動が子どもの投票率に大きく影響していることが分かる。
同居する両親が投票に行った場合の子どもの投票率は、女性の方がより影響が強く73%、男性でも69%が投票に行く。
同居していないとこの影響は少し下がるが、それでも両親が投票に行っている子どもの投票率は、女性で56%、男性で51%と高い。
逆に両親共に投票に行かない家庭の子どもの投票率は、同居の際にその影響が強く、女性で14%、男性も15%と極めて低くなっている。
親と同居している場合、良くも悪くも子どもの投票は、親の投票行動に強く左右されること、特に女性の方がこうした影響を受けやすいこと、男女いずれも母親の影響力が一貫して強いこと、男性は父親からの影響、女性は母親からの影響を受けやすい傾向があることなども見てとれる。
これらは日本のデータではなく、2009年のデンマークの地方選挙で200万人を超える有権者を対象とした分析調査を実施したものであり、事例分析がすべて日本に当てはまるとは限らない。
しかし、母親の影響力は他の研究でも指摘されており、先進国には共通した現象だ。10代の若者の場合を考えると、日本では一般的に専業主婦も多いことなどから、日本の母親の影響力はデンマークの母親よりもさらに強い可能性もあり、こうしたデータは、日本においても大いに参考になる可能性が高い。
こうしたことから考えれば、若者の投票率向上に関しては、両親、とくに母親の投票率向上についても同時に啓発運動が必要になるといえる。

秋の臨時国会で「子連れ投票」解禁へ

政府は、国政・地方の各種選挙の投票率向上を図るため、これまで原則的に認められていなかった投票所への子ども同伴を解禁する方針を固めた。有権者が利便性に応じて市区町村内の投票所を自由に選べる制度の導入も検討しており、こうした規制緩和措置を盛り込んだ公職選挙法改正案を秋の臨時国会に提出し、2016年夏の参院選での実施を目指す方針だ。
「子連れ投票は、これまで禁止されていたのか!」とお思いの方もいると思うが、公職選挙法58条では、「選挙人、投票所の事務に従事する者、投票所を監視する職権を有する者又は当該警察官でなければ、投票所に入ることができない。ただし、選挙人の同伴する幼児その他の選挙人とともに投票所に入ることについてやむを得ない事情がある者として投票管理者が認めたものについては、この限りでない」とされており、現行法は、「幼児」も含め「やむを得ない事情がある者」とされなければ、子連れ投票が認められていない。
一方で、抽象的な規制であるため、投票所によっては、小学生であっても同伴が認められているケースもあった。だが、それも投票管理者の判断によるので、各投票所ごとの対応に差があった。

「親子で選挙」のススメ

今年2月、「Social Innovation Program ~社会起業と総合政策特別講座~」と題して、通称「高橋亮平道場」と呼ばれる創発プログラムを、AO入試などを目指す高校生30人を対象に行った。
参加した高校生たちは、”Social Innovation”を起こすための事業を単に提案をするだけではなく、実際に実行しながら提案したのだが、この際、最終発表に審査員として参加してもらった安倍昭恵・総理夫人から大賞をもらったのが、「親子で選挙」というプロジェクトだった。

親子で選挙Facebook: https://www.facebook.com/pages/%E8%A6%AA%E5%AD%90%E3%81%A7%E9%81%B8%E6%8C%99/1533892140204521

政府の方針通り法改正が実現すれば、2016年の参院選からは全面的に子ども同伴が認められることになり、選挙に行くのを諦めていた子育て世代の投票が増えることも期待できる。その他にも、子どもを連れて行くためにと新たに投票に行こうと考える層もあるのではないだろうか。子どもたちに年少期から政治参加の重要性を理解してもらう効果も考えられる。
冒頭に紹介したように、同居の両親の投票行動が子どもの投票率に影響していることを考えれば、大きな効果が期待できる。こうしたことからも、2016年夏の参議院選挙に向けて、さらに「親子で選挙」プロジェクトを本格化させていきたいと思う。

大学内に投票所を求める「Vote at Chuo!!」の取り組み

投票所に関しても、現在は役所が指定する学校や公民館などに行かなければならないが、政府は、居住する市区町村のどの投票所でも利用できる仕組みとするほか、駅やショッピングセンターなど人が集まる場所に、各自治体が投票所を設置しやすくする措置も併せて検討している。
2013年の参議院選挙の際には、愛媛県松山市が全国ではじめて大学キャンパス内に投票所を設置するなどして、全体の投票率が下がっている一方で、20代前半の投票率が上昇した事例が話題になった。
こうした中、都内ではじめての大学内投票所設置に向けて、中央大学の学生たちが「Vote at Chuo!!」を立ち上げ、大学や行政機関などへの働きかけを行っている。

Vote at Chuo!! Facebook: https://www.facebook.com/voteatchuo

中央大学の場合、市境にあり、八王子市でありながら多摩市や日野市に住む学生も多い。自宅から通う学生も多く、実際には、住民票を移している学生が少ないことなどもあるため、単に投票所を大学内に置くだけでなく、住民票が八王子市にない有権者が不在者投票もできるようにすること有効だ。
せっかく大学に投票所を設置するのであれば、大学であることを最大限に生かし、期日前投票も実施し、投票を行うにあたって学んでおきたい授業などをオープンスクールで実施することや、各党関係者を招いてのシンポジウムなど、市内の高校生や保護者などを巻き込める新たな仕掛けとすれば、大学としても付加価値が得られるのではないかと考える。

「日本版ユース・パーラメント」の実践的取り組み

しかし、大事なのは投票率だけだろうか?
18歳選挙権の実現以来、国会議員やメディアの関心が「新たな有権者の投票率」ばかりに集中しすぎているように感じる。
実現後最初の選挙である2016年の参議院選挙の未成年の投票率が低ければ、18歳選挙権が必要だったのかと指摘される可能性は高い。
その意味でも、こうした若年層の投票率を高めることには、一定の必要性を感じる。
しかし、18歳選挙権を実現した目的は、若年投票率の向上ではなく、世代間格差をはじめ、とくに長期的な社会問題に対して、より幅広い層の声を反映していかなければならないということであり、民主主義の質をどう高めていけるかということにあったのではないだろうか。
以前にも紹介したが、スウェーデンでは、若者に関わる法改正や政策導入の際には、その過程で、当事者である若者の声を聞くことが義務付けられている。
スウェーデンの若者の声を反映する仕組みであるLSU(全国青年協議会)など若者参画の先進事例を参考に、日本においても若者の声を政策形成過程に反映する仕組みとして「日本版ユース・パーラメント(若者議会)」の実施を進めている。
3月には維新の党とともに、第1弾となる「日本版ユース・パーラメント(若者議会)維新の党編」を実施した。
会場となった衆議院議員会館 国際会議室には、50人近い高校生や大学生たちに対し、維新の党側も、政調会長や青年局長など10名以上の国会議員をはじめ、地方議員や党職員が参加し、政策協議を行った。
維新の党とは、その後も勉強会や政策協議を続け、そのうちのいくつかは党の政策として反映されそうなところまできており、いよいよその政策協議の結果を8月6日に発表する予定だ。
第2弾として7月に実施した「日本版ユース・パーラメント(若者議会)公明党編」についても、青年委員長など10名近い国会議員や党職員などが参加し、非常に盛り上がった。
今議会中には、自民党との第3段を行う方向で、青年局など関係国会議員や党職員と調整を進めている。
こうした、国政における各党政策のほか、「民主主義の学校」と言われる地方自治体の政策現場への若者の声の反映の仕組みなど、民主主義の質を高める新たな若者参画の仕組みをどんどん創っていきたいと思う。

日本若者協議会準備会: https://www.facebook.com/YouthParliamentJapan