注目の大ヒット、ドナルド トランプ劇場とは

2016年のアメリカ大統領選挙に向けて共和党候補の一人、ドナルド トランプ氏に注目が集まっています。氏の破天荒な言動はある意味、「自民党をぶっ壊せ」と言った小泉元首相に重なるものがあります。悩めるアメリカの政治について少し考えてみましょう。

アメリカ大統領選は実質二大政党の民主党と共和党がそれぞれの代表を頂上対決として今後4年間の大統領を選ぶというプロセスであります。それまでに各党が候補者の絞り込みを行うわけですが、民主党はクリントン候補が圧倒しており、今のままで行けば同氏が指名獲得となりそうです。

一方の共和党は候補者が乱立し、何人いるかも分からないぐらいになっています。その中で指名獲得の候補者はジェブ ブッシュ氏とスコット ウォーカー氏が有利のはずなのですが、その支持率が両氏ともせいぜい15%程度にとどまるのに対し、トランプ氏は25%をうかがう勢いとなっています。つまり、支持率だけ見れば圧倒しており、トランプ氏がそのまま指名獲得になるのですが、専門家はそうはならないとみています。

それは氏の発言があまりにも突拍子もない上に、特にヒスパニックがアメリカ経済の下支えをしている中でメキシコとの国境に壁を作るといった不法移民の取り締まりに並々ならぬ意欲を燃やしていることなどが挙げられます。既に候補者同士の討論会でもトランプ氏の発言をめぐっての応酬になり、同氏にブーイングも出るなど道徳心と品行に欠けると見られています。となれば、同氏は指名を獲得が難しくなりますが、その場合には「第三極として大統領選に出る」可能性を示唆しています。

こうなれば1992年のロス ペロー候補以来となりますが、この時は共和党がブッシュ(父)と票割れを起こし、民主党のクリントン(夫)が大統領に当選したという歴史があります。よって、共和党にとってトランプ氏の言動は正にペローの二の舞となるため、戦々恐々としているというところなのでしょう。

さて、では、トランプ氏の言動になぜ、高い支持率と注目が集まるのか、でありますが、私は小泉政権が出来た時と似た背景がある気がします。日本の場合にはデフレ経済とバブル経済後の失われた20年の真っ只中で国民は何か違う切り口を求めていた気がします。そこに小泉氏が迎合しない、自分のスタイルを打ち出し、多くの主婦というふだん政治に興味をもたない層を取り込むことに成功しました。

一方のアメリカの場合、リーマンショック以降、経済は指標的には回復基調にあるもののかつての夢を追うアメリカではなく、自国のことで精いっぱい、それが家庭レベルでは自分のことで精いっぱいという短視的状況になっていることでストレスがたまっている気がします。

特に政治に関してみれば、債務上限問題を始め、二大政党の国民を放置した醜い争いは正に党利党略そのものでした。それがアメリカにして無党派の増大に至ったのであります。つまりトランプ氏への人気沸騰とはアメリカ政治への国民のうっぷんが出ているとみています。

事実、つい2,3か月前にはクリントン対ブッシュという大統領輩出ファミリー同士の戦いがアメリカのコンサバティブさの表れである、と解説され、その証拠に80年代、90年代に流行った映画等の続編が次々作られるアメリカの回顧主義とも揶揄されていました。

ドナルド トランプ氏はアメリカ人にとって典型的なサクセスストーリーを歩んできた人物であります。もともと裕福な家庭に育ったのですが、不動産王としてのみならず、テレビや著書で名を売るばかりではなく、事業では失敗もし、一時はトランプの時代の終焉とまで言われていました。そういう意味ではこの20年以上、トランプ氏はアメリカのマスコミの最前列に居続けたことで抜群の知名度を誇るのです。勿論、今は莫大な資産を抱え、極めて安定した事業家でもあります。

大物になるためには何が必要か、それは人に迎合しない信念である、と言いそうなぐらいわが道を歩み続けてきたそのスタイルにアメリカが忘れていたものを見出しているのかもしれません。

大統領選は長丁場ですのでこれからかなり面白い話題を振ってくれることでしょう。少なくとも今後1年ちょっとはアメリカのゴールデンアワーを独占できるほどの影響力を持つことは確実です。トランプ氏が頑張れば共和党は焦り、クリントン氏は笑うとされていますが、92年の時と経済、社会環境が違いますのでクリントン氏も焦る時が来ないとも限りません。それぐらい、今、アメリカは悩める時代に突入しているように見えます。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 8月10日付より