中国が人民元を切り下げ、ニューヨーク市場では新たな世界通貨戦争の火蓋が切って落とされたとメディアが大騒ぎしています。
その割にクールなのが、NYのエコノミストおよびストラテジスト陣営。朝からCNBCに出演していたバンク・オブ・アメリカの米株ストラテジー・ヘッドのサビータ・スブラマニアン氏は「大勢に変化はない、米経済はいたって堅調」と切り捨てていました。
では、当サイトお馴染みのエコノミスト陣営はどのように解釈しているのでしょうか。
▽バークレイズのマイケル・ゲイピン米主席エコノミスト
9月利上げの予想で、変更なし。中国人民銀行の決定は、中国およびエマージング国からの資本流出を招きかねず金融市場へのリスクをもたらしかねない。ただ米国の金融市場は非常に緩和的で、ギリシャ債務問題も沈静化した。中国経済のハードランディングは米経済見通しに大きな影を投げかけるものの、中国国内の景気対策に利下げやインフラ投資だけでは十分ではないとの認識から人民元切り下げに踏み切ったとも考えられる。国内情勢への配慮、および国際通貨基金(IMF)における特別排出権(SDR)バスケット構成通貨への採用を目指す調整との見方もあり、9月利上げシナリオを維持する。
▽JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミスト
人民元切り下げ後も、9月利上げ開始の予想を据え置く。Fedのドル実効相場において人民元のウェイトは21.3%で、今回の引き下げを踏まえると0.4%の変化を与える程度で、向こう数年間では数百分の1の影響しか与えない。ドル高へのインパクトが軽微であると推測できる一方、Fedは今回の人民元切り下げを歓迎しないだろう。欧州中央銀行(ECB)の量的緩和(QE)とは異なり国内需要を刺激するというより、近隣窮乏化策と判断されるためだ。米7月小売売上高をはじめ米経済指標が堅調であれば、9月利上げの余地が残る。ただし、経済指標が弱含めばハト派がドル高を材料に先送りを求めかねない。
モルガン・スタンレーは、一連の中国の決定につきこのような解釈を与えています。
中国人民銀行の今回の決定には、1)市場原理に基づいた為替レートへの道筋作り、2)貿易加重平均での人民元上昇ペース抑制——といった2つの目的があったのだろう。特に1)をめぐり、IMFのSDRバスケット通貨採用に向け配慮したのではないか。例えば、人民元のフィキシングは終値に基づいた狭いスプレッドで市場が決定するような仕組みにすると明記していた。またヘッジを含めた為替商品も増加、取引時間の延長、適格海外投資家の参加なども盛り込んでいる。2)については、Fedの金融政策やユーロ安、円安、エマージング通貨のボラティリティ上昇に対し言及したように、人民元のさらなる上昇を回避させたい意図を打ち出していた。中国国内需要の鈍化、輸出の伸び低迷を踏まえれば、人民元の上昇はデフレ圧力を与えかねない。今後も財政・金融両面で国内景気を押し上げていく見通しで、資本流出の問題に直面しうる。
——Fedの政策にはほぼ影響なし、中国は今後も刺激策を提供するとの見通しがでてきました。Fedが一方的なドル高を甘受するとは思えず。仮に9月利上げに踏み切れば、誤配信したスタッフ見通しの通り様子見モードに入ってもおかしくはありません。気掛かりな点は、人民元切り下げによる貿易への影響とデフレ圧力。世界需要を促進する政策では決してないだけに、世界第2位のGDPを誇る国の決断は諸刃の剣となり得ます。
(カバー写真:Reuters via Yibada)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年8月11日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。