「養育費」という子どもの権利を守る方法はないのか?

こんばんは、おときた駿@ブロガー都議会議員(北区選出)です。
社会的擁護などの児童福祉の分野に携わっていると、どうしても避けて通れないのが「子どもの貧困≒親の貧困」問題です。


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物質的には豊かになったように見える一方、我が国では6人の1人の子どもが「相対的貧困」水準に陥っていることは阿部彩子氏の名著「子どもの貧困」で広く知られるところとなりました。


もちろん、子どもは生まれて勝手に貧困に陥るわけではなく、多くの場合は親の経済状況の影響をモロに被ることになります。
その中でも際立っているのが、「ひとり親世帯の貧困」です。

【メモ】子ども・子育て世帯、とくに「ひとり親世帯」の貧困率に無為無策な国で
http://otokitashun.com/blog/memo/6601/

以前にも取り上げましたが、シングルマザーを大半とするひとり親世帯の貧困率は54.6%と驚異的な数値となっており、しかもここ20年間ほとんど改善しておりません。

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我が国はこの分野に対して無為無策どころか、

「離婚したのは自己責任」
「若くして『子どもが子どもを生む』からこうなるんだ!」

と言わんばかりに、『自立』の名の下で経済的支援よりも就労支援を推し進め、むしろ母子家庭の貧困は悪化の一途をたどっているとの説もあります。

そんな中、都議会図書館に7月・8月と連続して新刊として

「シングルマザーの貧困」
「ルポ母子家庭」

シングルマザーの貧困 (光文社新書)
水無田 気流
光文社
2014-11-13


ルポ 母子家庭 (ちくま新書)
小林 美希
筑摩書房
2015-05-09


が入荷されまして、早速読み終えたところです。

母子家庭が貧困に陥る理由は多岐に渡りますが、その中で大きな問題の一つとなるのが「養育費」です。

離婚した夫婦のうち、子どもを引き取った側にそうでない側が子どもを養育するために支払う責務を負う「養育費」ですが、なんと我が国では養育費の受け取り率は2割に満たない状態です。

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離婚母子世帯における父親からの養育費の状況
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-setai06/02-b16.html

「相手と関わるのが嫌で、養育費の取り決めをしなかった」
「最初の方は支払われていたが、やがて支払いが途絶えた」

というケースが大半であり、上記の2つの著作の中でも養育費がもらえないばかりにあっという間に子どもが貧困に陥るケースが複数に渡って報告されています。

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これには、2つの要因が考えられます。

1.
「養育費は子どもの権利」という意識の希薄さ

日本人の大半は、養育費を

「子どもを養うために、その親に対しての生活費諸々として払われるもの」

という勘違いをしていますが、養育費は決して親のために支払われるものではありません。
養育費は、健やかに育つために子どもが受け取る「権利」なのです。

「相手の顔を見たくもないから、養育費は受け取らない」
「あいつにためにお金を払うなんてまっぴらだから、養育費は払わない」

もちろん様々な感情や事情はあるのでしょうが、こうした理由で養育費を(支払いも受け取りも)放棄することは『大人のエゴ』に他なりません。

どんなことがあっても、養育費は子どもの権利としてしっかりと取り決めを行って支払う・受け取る意識を涵養する必要があります。

2.
養育費を取り立てる法的手続きの煩雑さ、脆弱さ

養育費の支払いは「義務」なので、支払いを拒否したり滞った場合は、所定の手続きを踏んで裁判所から勧告や資産の差し押さえをしてもらうことが可能です。

しかしながらそれは事実上、調停離婚をして記録が残っている場合か、公正証書などので養育費の取り決めがしっかりとされている場合に限られます。
そしてそれは、全離婚のうちのわずか40%足らずに過ぎません。

口約束や非公式な書面だけで養育費の取り決めを行っていた場合、そこから法的訴訟を起こして養育費を取り立てることは、不可能ではないまでも相当な困難が予想されるようです。

そうこうするうちに、本来もらう養育費より弁護士費用が上回ったり、子どもが成長して大人になってしまったりと、事実上養育は相手が支払いを拒否すれば受け取る側の大半は泣き寝入りせざるを得ないのが我が国の現状といえます。

付け加えれば、養育費がもらえないような形で離婚をしてしまった母子家庭に対し、

「自業自得」

として厳しい目を向ける風潮も疑問です。
離婚の理由は性格の不一致だけでなく、夫からのDVや経済的困窮など女性側に過失のない、やむを得ない事情によるものも多く存在します。

何より、養育の義務や養育費の支払いを放棄した男性側こそもっとも有責性を問われるべきであって、ひとり親として残された母子家庭に厳しい目を向けることはどう考えても筋違いと言えます。

もちろんこうした養育費の問題は行政側も課題認識しており、各自治体にも相談窓口などが設定されていますが、民法の改正でやや改善されたものの、依然として養育費の取り立てハードルは非常に高いと言えます。

養育費 電話相談・専門相談
http://www.haat.or.jp/category/1907040.html

◯養育費は「子どもの権利」であるという国民的意識の醸成
◯養育費の不払いに対する罰則の強化、法的な差し押さえの簡素化
◯相手が支払い能力を喪失した場合の救済措置

これくらいのことを「子どもの権利」という観点から我が国はしっかりと行っていく必要があると言えるでしょう。

国政とも連携しながら政策提言を行いつつ、地方レベルでも改善・支援できる分野について調査研究を進め、またこちらで提案していきたいと思います。

それでは、また明日。

おときた駿 プロフィール
東京都議会議員(北区選出)/北区出身 31歳
1983年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループで7年間のビジネス経験を経て、現在東京都議会議員一期目。ネットを中心に積極的な情報発信を行い、地方議員トップブロガーとして活動中。

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