平成25年5月、「成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律」が成立、公布されました。総務省によれば、平成25年7月1日以後に公示・告示される選挙については、成年被後見人は、選挙権・被選挙権を有するとされています。
この法律の公布によって、投票時に直筆記入が困難である場合はサポートがついて投票することが可能になりました。しかしサポートは投票所のスタッフに限られているので本人が意思を伝えられない場合は、投票できないため棄権扱いになります。総務省HPでも「投票を補助すべき者が選挙人本人の意思を確認できないときは投票できない」と記載されています。
●海外のケースは
各選管は投票所のサポート体制を強化しています。「判断能力が低下している人は周囲の影響を受けやすく投票決定を左右され易いので注意が必要」「恣意的な誘導があれば選挙の公平性が阻害される」ともいわれています。ここでは海外のケースと比較をしてみたいと思います。
<アメリカ・イギリス・カナダ>
病気や障害のために投票所に行けない場合は郵便投票が可能です。また障害を証明する診断書なども不要とされています。代理人による投票と郵便による投票が可能とされています。
<デンマーク・スウェーデン>
障害者で投票所に行くことが困難な人に対しては、自宅や介護施設等での投票が可能とされています。郵便投票も可能なほか、選挙委員会が指定するスタッフが自宅や介護施設等に赴き投票をすることも可能です。郵便投票以外では代理人に投票用紙を託すことができます。
海外では、有権者の選挙権を阻害するほうが問題であるとされています。仮に外部からの投票時における影響があったとしても、その影響によって選挙権を奪うことはできないという考え方があるからです。また、障害の有無を診断書や証明書によって証明することも不要とされ、障害者に負担を強いることはできないとされています。この点は日本よりも先進的です。
日本におけるノーマライゼーションの実現には超えなければいけない壁が多く存在します。ノーマライゼーションは、デンマークのバンクミケルセン(1919~1990)によって提唱された概念です。「障害者と健常者とは、お互いが特別に区別されることなく、社会生活を共にするのが正常なことであり、本来の望ましい姿である」とする考え方です。
バンクミケルセンはナチス占領下のデンマークでレジスタンス運動を行ったため収容所に入れられています。その経験を通して、知的障害者の人権に寄与したのがノーマライゼーションの原型といわれています。この概念は全世界に普及して、国際障害者年(1981年)のテーマである「完全参加と平等」とした国連決議へとつながり、いまでは社会福祉における基本的な考え方として理解されています。
●尾藤克之
ジャーナリスト/経営コンサルタント。代議士秘書、大手コンサルティング会社、IT系上場企業の役員等を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ新書)、『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など。
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