米大統領候補者トランプ氏の「正論」 --- 長谷川 良

韓国日刊紙「中央日報」日本語電子版(24日付)は米共和党大統領候補者ドナルド・トランプ氏の発言を大きく報じていた。その記事には、「金正恩は頭がおかしいか、そうでなければ天才だ」という日本語タイトルが付いている。同発言は、同氏が21日、アラバマ州のバーミンガムのラジオ放送との番組の中で答えたものだ。

当方がその記事に惹かれたのは少々刺激的ななタイトルのせいもあるが、米大富豪の大統領候補者が朝鮮半島の現状をどのように見ているかを知りたいと思ったからだ。

同氏は新しいことは何も言及していないが、一点、日本にとっても重要と思われる発言をしている。先ず、その部分を紹介する。

「トランプ氏は韓国を防御することから米国が得るものはないという『安保無賃乗車論』を繰り返した。『なぜわれわれが皆を防御するのか。彼らは金持ち国家だ。正しい指導者がいるならば彼らはわれわれに巨額の資金を出すだろうし、そうすれば皆が幸せになる。だが、今、現実はとても悲しい状況だ』」

トランプ氏は豊かな国・韓国が自国の安保を米軍に頼っている現状を「悲しい状況だ」と指摘し、「韓国がその気になれば自力で国家を守れる国力を有しているはずだ」と述べ、韓国の「安保ただ乗り論」を批判しているのだ。この発言を読んだとき、「日本にも当てはまることだ」と思わされた次第だ。

日本で目下、集団的自衛権のための安全保障関連法案が議論されている。野党側は「日本は70年間、平和だった。それは憲法9条があったからだ。にもかかわらず、安倍政権は憲法9条に反する集団的自衛権のための安保関連法案を施行しようとしている」と反対し、「国民を戦争に駆り立てている」と騒いでいる。

確かに、日本は70年間、戦争に直接巻き込まれることなく、その国力をもっぱら経済発展に投入できた。しかし、次の70年間も同じように日本国民が平和を享受できる保証はどこにもない。朝鮮半島の現状をみれば分かる。中国はアジアの覇権を狙い着々とその軍事力を増強している。そこで安倍政権は集団的自衛権のための安保関連法案を施行し、国の平和を守る積極的平和主義を展開させようとしているわけだ。

トランプ氏は日本の安保政策について何も言及していないが、同氏の口から「お金持ちの国・日本はその安全を米国に依存し、自国は何もしない」といった「日本の安保ただ乗り論」が飛び出したとしても不思議ではない。

米共和党は伝統的に保護主義者の集まりだ。共和党候補者が次期大統領に選出された場合、安保分野では日本の負担を更に求めてくるのは目に見えている。そのような時、日本が安保関連法案すら施行出来ない場合、米国の日本への失望は深刻だろう。米国が日本を見限り、中国とアジアの安保を仕切る方向に変わることだって十分あり得ることだ。米国は国益を重視する国だ。自国の利益に一致しないと分かれば、日本を切り捨てることさえ躊躇しないだろう。

トランプ氏が大統領選レースで勝利する可能性は現時点では少ないが、誰が次期大統領に選出されたとしても、米国から日本への安保負担要求が強まることは避けられないだろう。その意味から、暴言や奇抜な言動が目立つトランプ氏だが、今回の発言は韓国だけではなく、日本の国民に対しても重要な内容を提示している、と受け取るべきだろう。

日本がアジア諸国と連携しながら平和で共栄・発展できるアジア圏を構築していくためには、日本もその国力にあった負担を担わなければならない。集団的自衛権のための安保関連法案について、「日本を戦争に駆り立てる」とか「徴兵制の復活」といった類の反対論は、自国の安全に対する無責任なプロパガンダに過ぎない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年8月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。