ブラックバイトに対抗するため、高校生が労働組合を組織したことが話題になっていますね。
何というか、アニメやマンガなどのフィクションでは、現実の高校生(主に女子高生) には全く無縁のものを組み合わせるって、昔からある割りとある「企画」ですけど、さすがに労働組合との組み合わせはなかったと思うので新鮮ですね。まあ、だから、話題になっているのでしょうが。
ブラックバイトについては過去に、これ以上書くことないってくらい何度も記事を書いているので省略して、今回は労働者としての高校生について考え、そこから高校生が労働組合を組織し労働運動をすることについての功罪みたいなものを考えてみたいと思います。
世間には高校生でないと務まらない仕事はない
まず、大前提として、世の中には現役の高校生じゃないと務まらない仕事というものは、芸能界や非合法な風俗を除けばまずありません。なので、高校生をどうしても雇いたい、高校生じゃないとダメなんだと思っている企業というのも世の中にはほとんどありません。あくまで、「高校生でもいいよ」という気持ちで雇っているにすぎません。
なので、高校生でバイト可能な仕事というのは、基本的に熟練した技術やスキルを必要としない誰でもできる仕事しかありません。マックやコンビニの店員なんかはその典型ですが、そうした接客業でも最近では男女問わず中高年の方たちが目立って増えていますし、外国人も少なくありません。逆の言い方をすれば、そうした職種には、わざわざ高校生バイトに頼らなくても、代わりはいる(※)わけですね。
(※ 追記:代わりはいる、というのは、別に代わりはいくらでもいるという意味でも、代わりなんてすぐ見つかるという意味でもなく、単に能力的に同じような人は高校生以外にもいるという意味だったのですが、慢性的な人手不足の現代においては誤解を招く表現でした。お詫び申し上げるとともにここに追記させていただきます)
しかも、そうした競合と比べて不利なことに、彼らには労働時間の制限があります。平日の昼勤務は学校があるのでできないし、夜10時以降(地域によっては11時以降)の深夜業は法律で禁止されています。
それでも、高校生バイトを雇う企業が存在するのは、最低賃金かそれに近い時給で雇えるというコスト上のメリットがあるからと、誰にでもできる仕事だからあえて高校生を不可にする理由がないからに過ぎません。まあ、接客業の場合は、高校生可にしておくと、若くてカワイイ女の子が雇える可能性が増えるから、というのもあるかもしれませんが。
高校生労組なんてこれっぽっちも怖くない理由
労働組合、特に社外の合同労組やユニオンというのは、経営者にとっては非常に嫌な相手というか、はっきり言って嫌われています。しかし、高校生の労働組合を怖がる経営者はまずいないでしょう。
例えば、バイトの高校生の未払い残業代請求で高校生労組が会社に乗り込んできたとします。しかし、すでに述べたように高校生の時給なんてたかが知れている上、勤続期間も短いため、一般の会社の未払い残業代請求と比較すると、大きな問題になりようがありません。すんなり払って終わらせてしまうところも多いでしょう。
それだけだったら、高校生労組の勝利パチパチで終われるのですが、そうやって高校生労組に訴えられた会社は今後も高校生を求人しようと思うでしょうか? おそらく、もう高校生はいいやと考えるはずです。また、メディアがそうした高校生労組の活躍を報道すればするほど、ブラックではない普通の会社も高校生の雇用に及び腰になります。つまり、彼らが頑張れば頑張るほど、高校生の働く先が減るわけです。
それに、高校生バイトというのは労働契約の中身がどうであれ実質的には時限付き、卒業とともに辞めていく場合がほとんどです。一般的な労使紛争では、ユニオンに入った労働者が会社に居座り続けることに頭を悩まし、面倒はゴメンなのでなんとか辞めてもらいたいけれど、法律上それはできないということで困り果てる経営者も少なくないのですが、高校生労組の組合員についてはその心配もない。
しかも、労働組合員であることを理由に会社は労働者の採用を拒否してはいけないと、労働組合法では定められていますが、高校生労組員を会社に入れないことは簡単すぎるくらいに簡単で、求人年齢を18歳からにして高校生不可にすればいいだけです。
労働組合を組織するのは結構だが・・・
一応言っておきますが、労働組合を組織することは労働者の権利であり、高校生といえど労働による対価を受け取る以上は労働者には違いないので、労働組合を組織すること自体にわたしは文句はありません。義憤にかられて行動を起こすのも結構です。
わたしは単に、権利を行使することが一部の人の利益にはなっても、全体の利益にならないことがあるということを指摘したいだけです。
それに加えて、つまらない大人のテンプレみたいなことを言わせてもらえば、目の前のたかだか数万円のために多くの時間を割くより、もっと他にやるべきことがあるのではと思ってしまうわけです。現在高校生であるあなたと、数年後にもう高校生ではなくなって成人したあなたとでは、選択できる未来は比較にならないくらい減っているわけですから。
川嶋英明(社会保険労務士 @Hideaki_KWSM)